第23話 侵攻、突破、救助 ①

 その一方、遼介は母屋三階の櫓の影に隠れていた。10分前、彼はここにたどり着いていた。現場の状況を確認している。自分の源気を抑え当初遼介が警戒していたのは、この敷地内に強力な源使いがいるかどうかであった。金儲けのために暴力団に力を貸す者は少なくない。だが、これまで特に注意を払うべき者は見つかっていない。どれも源の気配は弱い。遼介には雑魚の群れだった。


 遼介のいるすぐ下には和モダンの事務室があった。机の左右に一人ずつ配下が立ち、机の前に背が低く太り気味の頭の禿げた男が立っている。太った男は鮮やかなシャツを着ている。どうやらこの組の組長らしい。壁にニュース映像を投影している。会長の目付きには殺気がこもっており、目の前で土下座しているタクヤを見下ろしながら罵る。


「てめえどういうつもりだ!女を集めるためにこんな派手なことしやがって!組を潰す気か!?」


「オヤジ、心配かけて申し訳ありません!今回の件は足がつかないよう始末しました。サツはここまでは来れません!」


「誰が州政府の犬を怖いと言った!交渉なく勝手に他所の人間を引き抜くなんて許されねえんだ!こんなことも知らねえのか?この大馬鹿野郎!」


「連れてきた女は全て顔をいじらせます。バレないようにしてます!」


 組長は机に置いた日本酒の瓶を取って、中身を全てタクヤの頭にかけた。


「おめえが何でずっと4番手に甘んじてるか、わかるか?」


「わかりません」


「おめえは確かに頭が良いし人望も多少ある。だが、やることがいちいち派手すぎるんだ。この件で、もしウチの奴らに何があったら、どんな罰を受けるか、その口で行ってみろ!」


 タクヤは組長の座を狙っていた。 万が一組長の身に何かあったら、組長代理は1番目若頭の兄貴が受け継ぐ。 そうなると現在4番席のタクヤに、組を手に入れる順番は永久に訪れない。だが今タクヤは新たな力を手に入れていた。屈辱に対する怒りを腹に忍ばせ、いつ反逆してもおかしくはない。


「…すみません、オヤジ……!」


 二人の会話は遼介に筒抜けだった。増大したタクヤの源には殺気が含まれている。彼はいずれ組長を裏切するだろう。情況を確認すると、先ほど練った策をもう一度だけトレースし、動き始めた。遼介はグラムの気配を放った。わざと周囲に存在をバラすことで、敷地内の雑魚を引き出す。まとめて始末するつもりだった。


 遼介は櫓から西側の庭に飛び降り、直接地下施設に潜入するつもりだったが、 背の高い男が道をふさいだ。


「どこからきた野猿だ?」


「お出ましか」


 遼介は思わず歩み寄る。かっちりしたスーツを着れオールバックの男が立ちふさがった。手にトライデントを持っている。長い柄と刃に赤い光が煌めいていた。どうやら普通の武器ではないらしい。


「人んちの庭でコソコソする奴は例外なしにぶっ殺す!」


「悪いけど友人がお前らの仲間に攫われたんだ。案内してもらえないか?」


「何のことだがさっぱりわからない。だが、オヤジの命を脅かすなら全て排除する!」


「そんなもの興味ない。救出したら、すぐにここから出る」


「それは理屈が通らねえよ。敷地内に入った部外者は全てオヤジへの脅威とみなす」


 十数人の若衆が現れて、遼介を囲った。目で追って数えると30人ほどだった。その中にいる二人の男女はどうやらウィルターらしい。遼介が予想した通り、少し源気を出したことで感応した連中を引き寄せた。


「痛い目にあいたくなければ今のうちに下がれ!龍の逆鱗に触れた代償は一生忘れないほど手痛いぜ!」


 13人の若衆の腕に掛けられたリングが一同にハンドガンに変形し、他の人は刀剣に変形させた。若衆は遼介に向かって発砲した。


 遼介はその場に立ったまま、ガードさえもせず、生身でエネルギー弾を受けた。


「とけ!雑魚とも!!」


 次の瞬間、遼介が発した源気は周囲の空気を圧迫し、凄まじい烈風が若衆全員を吹き飛ばした。ある者は池に落ちたり、ある者は頭で芝生を堀り込んだり、襖を破った。遼介はその場を動かずして、若衆を一気になぎ倒した。ウィルター の二人はひどく動揺した。女ウィルターは振り向き、倒れた若衆達の様子を見て、首を戻した。


「何をした?!」


「こいつ、一瞬出したグラムの空圧だけで人を吹き飛ばしやがった!」


 遼介は一瞬で飛び寄り、反応できない男ウィルターを肘の衝撃で打ち飛ばした。


「ぐわっ!」


 男は二階の窓に突っ込んだ。次に、遼介は一瞬で女ウィルターに接近し、手刀で首を狙い打った。


「うっ!」


 女源使いは気を失って倒れた。オールバックの男がトライデントを突き刺しにきた。遼介は切先を避け、宙返りをし、10メートルほど離れた所に着地した。


「オッサン!まだやるつもり?」


 男は大声で叫んだ。


「このガキ!!!」


男は赤い光をトライデントの先端に集めた。


 男がトライデントを振り下ろすと、凄まじい衝撃波が一直線に地を走る。遼介はそれを避けると、男は距離を詰めて連続で突き、切り払う。遼介は男の動きをよく観察し、瞬時に対応する。まるで一連の攻撃の意図を見破ったかのように、容易にすべてをかわしながら笑う。


「当たりそうにないな!立派な武器が台無しだ!」


「ちょこまか避けやがって、野猿の分際で!」


 遼介は男の斬撃を避け、左手で金属の柄を押さえ、右足で軽く蹴りを入れ男を吹っ飛ばした。男がぶつかった衝撃で、高さ20メートルはあろう灯籠が倒れた。遼介は

トライデントを持って言う。


「長物を使う割には、足腰の動きが全然だな?オッサン」


 男が立ち上がる。口から流れた血をぬぐい、淡い笑みを浮かべた。


「ふん…なかなか恐ろしい小僧だな……俺の名は川島シロ……小僧、名を乗れ!」


「俺は光野遼介!川島のオッサン、案内しないなら自分で穴を掘って行っちまうぜ」


「まさかあちこちの組織を潰して回ってる、あの『火爆闘神スサノオ』か?」


「それがどうした?」


「ハハッ、これは傑作だ~!」


「?」


「噂に聞くお前と一度手合わせん願いたかった、まさか本当にそんな日が来るとはな!」


「俺の事より、あんたの所の組長、危ないぜ。今にも殺されそうだ」


「黙れ!嘘で油断させようったってそうはいかないぞ!」


「嘘なんかじゃない。オッサンの兄弟分が裏切ろうとしてるんだ」


 次の瞬間、母屋の建物が爆発した。櫓に大穴が現れ、煙が昇っている。その中心に、背中から6本のアームを伸ばす人影が見えた。アームが生きているように動く。シロウは動揺した。


「ほら」


「まさか!タクヤの奴、オヤジを裏切ったのか?!」


「俺と戦ったのは無駄だったな。大将の所に行ってやりなよ」


「まさかテメェ、タクヤの使い手か?」


「知らない。さっきから誰だよタクヤって。勝手に妄想を展開されても困る」


「とにかく、先に延みたいなら俺を倒してからだ」


「お前も結局、ザコ連中と一緒で脳味噌が足りてないんだな」


「何?!」


「返すよ!」 


 遼介はトライデントを投げ返た。シロウが受け取る一瞬間で、遼介はシロウの背後に回り込んだ。


「ぐおっ!」

 グラムを込めた石を手に握り込んでいる。柄が落ち切りシロウが倒れた。


 シロウがトライデントを受け取るまでの間に、遼介は石を握った拳をシロウの腹を叩き込んでいたのだった。


「ボスに対する忠義より自分の意地が大事なんて、オッサンはヤクザには向いてないようだな?」


 遼介は倒したシロウの横を通って、地下の施設に向かって進んで行った。


 

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