第7話 天才(エリート)の日常(憂鬱)③
昼の休み時間、学食の屋上。複数の草花と木々が植えてある花圃の台の上に板形のベンチが組み付けてある。この屋上庭園はまるで迷宮のようだ。遼介はベンチに横たわって焼きそばパンを食べながら読書している。一見して普通の本に見えるが、それは分子で組み立てる人造紙である。
スミレは屋上の階段入り口に出て来て、売店で買ったちらし寿司弁当の入った袋を提げている。彼女はうろうろと人を捜し、遼介の茶髪を認識すると駆け寄った。
「光野君、見つけ〜た!!」
遼介は知識を求めるのに夢中で振り向きもせず、軽い声で応じる。
「おう」
スミレはベンチに座って、ちらし寿司弁当を取り出し、食べ始める。美味しそうな寿司を食べながら、自分の寿司を遼介にシェアしようと声を掛けた。
「私のちらし寿司食べる?」
遼介は本を読みながら遼介は手に持つ半分ほど残った焼きそばパンを見せて答えた。
「俺は焼きそばパンで十分だ」
「それじゃ栄養不足でしょ?」
遼介の目線は3秒ほどスミレの顔で止まり、また本に戻った。
「気持ちだけ受け取っておく」
飯を食べ続くスミレは遼介に訊ねた。
「光野君、昼休みいつもここに居るの?」
「ああ、より高い所に立ちすればより遠くが見える。俺は高い所が好きだ」
「どうして?」
「俺は飛騨山脈の生まれた、子供頃よく山上から眺める。そんな景色が好きだ」
遼介の実家は飛騨山脈の五龍岳の奥山にある。幼い頃から大自然の環境に育ち、本州の山々で彼にとって家の庭のようにあちこち遊んだ。再建設した新東京は自然を重大な要素取り入れ緑や水等をよく使っていたが、やはり奥山と比べると物足りない。武術の鍛錬の合間に、遼介はいつも高い山頂や古い神木の枝上に立ち止るっていたので、新東京では高層ビルの屋上やタワーの頂点でゆったりと過ごしたりする。
遼介に興味を持って、スミレは顔を近いづけてきた。
「なるほど、素敵な眺めなんだろうね!」
遼介は軽く頷き、本のページを手繰る。スミレが覗きこむと、陣形の図絵が見えた、他には珍妙な紋様が見える文字が並んでいて、何が書いているさっぱり分からない。スミレは問いかけた。
「光野君は何を読んでいるの?」
「兵法実論だ」
「見た事ない文字だね?」
「これはアトランス界に使いされている文字の一つ、ミルタスト文字だ」
「へ〜!アトランス界の言葉を読めるの?凄いね!」
「別に。言語の読み方はラテン語と似るし、そんな難しい言語ではないぜ」
アース連邦政府が認定した主、言語は五つあり、その他に八つの通用言語がある。他の言葉は研究用か、または地域方言になった。今では錬金術は科学の一つの実用分野になったので、かつて一度没落した古いラテン語は、今では通用語として使いされていた。
「光野君はアトランス界に行ったことあるの?」
「俺は行った事ないけど、アトランス界の言語はうちのババ…祖母が教えてくれた。実家の書庫に沢山あるアトランス界の蔵書を読むために」
「知識欲が強い人だね?」
「智は力であり、武を最大限に活かす。武術の達人になるために、より広く深く知識を探求するほかにない」
「それがいつも成績満点を取れる秘訣なんだ?」
「別に大したことじゃない。どんなことでも最良の結果を成す、そうやって俺は生きてきたんだ」
「それは凄いことなのよ!」
褒められでも嬉しくないとばかりに、遼介は退屈そうに本を閉じ、スミレを見て問いかけた。
「お前いつも機嫌良いんだな?」
冷たい空気を察したスミレはむしろ、遼介の気持ちをもっと探りたいと思った。彼女は体良介の致近距離まで体を近づけ、質問した。
「黒田くんの事まだ気になるの?」
遼介は一瞬だけスミレを見て、また空を眺めながら云った。
「別に、あいつの考えも、言うことも、全部読めた。俺はただバスケがやりたかったから彼の挑発に乗っただけだ」
「知っているでしょう?黒田君の親はうちの校長と付き合いが長い。彼のことを逆らうのは賢明なことではないと思うのよ」
「それも承知の上で、俺は奴の挑戦を受けるべきだった。奴がクラスの人間を何回もいじめたことあった、お前も知っているだろ?」
「彼の挑発は無視すれば、楽にできるでしょう?」
クラス委員長であるスミレより、黒田がクラスを動かせる力を持っている。スミレは目を伏せた。
「二面先生から聞いたんだけど、黒田君は幼い時に母親が亡くなって、父親は医者の仕事が忙しくて、なかなか黒田君のことをケアしなかったんだって」
その話を聞いても遼介は落ち着いていた。
「人の注目を求めることは理解できるが、それは人を虐める理由にならないだろ?」
遼介のやりかたを理解できないスミレは問い合わせた。
「どうして光野君はそこまでやり必要があるの?彼の挑発も無視すれば、よかったんじゃない?」
「奴らの事を避けてもまた次々と仕掛けてくる。弱気に逃げても火に油を注ぐようなものだ。ぬるい手段で奴を止められないなら、真正面にも受けたつ方が楽しいだろ?」
武術を習っているとはいっても、彼女にとって、男の意地張りの争いはよく理解できなかった。
「だとしても、あんな不利な条件でも受けるの?」
「どんなに不利でも俺は奴の挑戦を受け取るつもりだ。それは相手に対する最低限の敬意だ」
「それは男の意地ってやつなの?」
「そうじゃない、それは俺の物事に対する流儀だ!策を弄し最後に勝ちすれば奴の企みは全て無意味になる。この件で奴も少しは大人しくなるだろう」
スミレとしては、遼介の本意は分かったが、その行動はあまりにリスクが高く、感心できない。ため息をつき、委員長として二面先生の伝言を伝えた。
「はっ、現場にいた生徒の証言で、黒田君の足の怪我は不注意ということで終わらせるって」
スミレが自分のために先生に現場の状況を伝えてくれたと思った遼介が彼女に礼を言う。
「そうか、ありがとうな、お前もお疲れさんだな」
スミレは目線をそらして、少ししくしくとする気持ちで遼介に助言した。
「二面先生が警告に言ったけど、もしまた今度あなたが誰かの挑発を受けたら、次は機関にリスクポイントを計点申告するって」
「そうか。二面先生は、元々ウィルターの俺が嫌いなんだよな」
「私はそれが悲しいよ……」
周りの環境は一方的に、遼介に対して偏見を持っている。スミレが憂いても、現状を変えられない。スミレは自分の無力さを痛感した。それでも、クラス委員長として、クラスの雰囲気を維持するために努力したい。スミレは遼介が黒田のことをどう思っているのか訊ねた。
「一つ教えて、光野君は、黒田君の事が嫌いなの?」
「人間として嫌いではない。奴より性格が醜い人間はいくらでもいる。俺は人の挑発のお言動一つ、二つで好き嫌いを決めたりしない」
「そっか……」
遼介の言葉を聞いて、スミレの心はまるで水に石を投げられたように、波紋が揺れた。花の蕾が咲くように、良介のことを本気に好きになる。少女の頬は微かに赤く染まった。
その時、遼介は誰かの気配を感じた。この馴染みない源気は先週から感じているもので、それは階段入り口の所に隠れている。それでも。遼介はスミレと自然に話し、気づいてないように装う。
遼介は深呼吸し、本題に移った。
「さてと、お前が俺に言いたい事そのことじゃないだろ?」
スミレはこの人なら本気に相談できると思って、気持ちを少し整えて、遼介に云う。
「うん、実は、私は住んでいるエリアに通り魔がときどき現れるの」
彼女はやぶからぼうにその言葉を言って、遼介は呆れ顔で問いかけた。
「通り魔?」
「その犯人はエリアの住民を強盗する。彼はヘラドロクシなの……」
現金が完全に無形化した時代に、商売の方法はユーザーが個人M Pディバイスに暗証番号や指紋や視網膜等で金銭の交流を承認する方法で進む。普通の人間にとって強盗は難しいが、ヘラドロクシなら、暴力で金や生活物資の振込を強要することはたやすい。それは時世いまの強盗によくあるやり方であった。
「警察に通報すれば良いだろ?」
「噂によると、犯人の動きは凄く速いらし、筋力も凄くて、警察じゃがなかなか捕ま得られきないの」
「そっか、お前は俺に奴を倒せたいのか?」
「私は犯人を止めたいけど、力が足りないの…」
遼介は本とゴミ屑を鞄に入れて、ベンチから離れた。スミレは追って来て、少し強めの口調で頼んだ。
「もし、光野君ならあの通り魔を止められるよね?」
遼介は軽くステップを踏んで、ガラス窓があるフェンスの上に立ち上がった。
「お前の家は確か練馬エリアだったな?」
「うん」
遼介は背を向けながら言った。
「分かった、その依頼を受け取る。だが条件がある」
「どんな条件でも私は受ける!」
「これからもう俺と関わらないこと」
スミレは慌てて訊ねた。
「えっ、どうしてそんな……?」
「お前は知っているはずだ、俺と関わり過ぎると、いずれお前はクラスの皆に追放される。委員長の仕事にも障害になるだろ?」
「そんな事は出来ない!だって、光野君は何も悪いことやってないでしょ?」
スミレは遼介の本当の顔を知らない。レッドオーダーの役人として、遼介はたくさんのヘラドロクシの命を奪ってきた。自分は武道家としての手が既に血まみれであり、仇を討ち来る連中はいくらでもいる。こんな普通の女の子を巻き込みたくない、思いを切って冷たい口調で言った。
「お前の依頼は俺が必ず果たす」
その条件は受けられない、スミレは力を込めて握る両手を胸元の前に挙げて、身をぎゅっとする仕草で慌てて言った。
「だったら、その依頼は取り消しよ!通り魔は私が止めれば良いの!!」
遼介は冷笑する。
「ふん、自分勝手なやつだな」
遼介は七階程の高さを見下ろし、フェンス壁から跳び落ちる。スミレは両手をガラスに貼り付けて大声で叫んだ。
「光野君!だめー!!」
遼介は何事もなく一階中庭の芝生に着地した。それを認識するとスミレはもう一度遼介の凄まじい身体能力に感心した。
「嘘?この高さから跳び降りて無事なんて……」
中庭に居る他の生徒は遼介の行動に驚いた。感激する人はいたが、大多数は化け物を見るように表情歪めていた。二、三人陰口を言っている者もいる。
遼介は周りの生徒達の反応を無視し、回廊を越えて前庭に向かって去った。スミレは屋上を走って、反対側のフェンス壁から見下ろす。500メートルほど先で遼介の姿は既に校門にたどり着いた。スミレは更に大声で放った。
「光野君———!!午後の授業さぼるつもり―?!」
振り向くと、手を挙げて遼介は同じ程のボーリュムで応じた。
「もう勉強済みだーー!!先生達にもメッセージを送った、午後の時間に俺は州立図書館で自習する!」
次の瞬間、遼介の姿が校門から消えた。スミレは寂しそうな顔で浮かべてスミレは声を洩らした。
「光野君……」
スミレは心の底からある事を決意した。そのとき屋上の地面に雫つぶつぶと落ちている。スミレは頭をあげ、片手を顔の上にかざし呟いた。
「うそー!雨?」
スミレは慌てて両手で頭を抱きなから、屋上の入口に向かって走っていった。
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