第3話 プロローグ ③
中央学園区の空では、様々な飛ぶ乗り物が行ったり来たりしている。たまに奇妙な生物が引く列車や、一人乗りや二人乗りのスタイリッシュな飛空艇が通り過ぎる。まさしく賑やかな光景だ。目の前に見える建物は、巨大な金色の門の形で、上から眺めると、建物の周りには八本の脚のような柱が伸びている。その周りは植物に囲まれてった遺跡。これは聖光学園が管理する
ヒトミはその建築物に足を踏み入れる。およそ九階程の高く広い空間の二、三階の周りにはたくさんの、人が入れる大きさのカプセル装置が設置してある。それは『向こうの世界』の環境を適応するために一時的に人体の遺伝子を組み換えることのできる装置だ。
ヒトミは一階の中央本堂に入った。壁や柱に美しい人々の石像と絵が施されている。まるで聖なる礼拝堂の雰囲気を醸してしている。真中六角形の石階段は中央に向かって昇っていく仕組みで、最上部の六つの柱の台の上は青い光を放っている。その空間はやや肌寒く、周りには警備している四名の男女と白い服を着た祭司のような男性。それ以外に人はいない。その祭司のような男性はヒトミに気が付くとこちらにやってきた。ヒトミに一礼し、挨拶をした。
「お待ちしております。
ヒトミは男性に向かって丁寧にお辞儀を返し、気軽な感じに問いかけた。
男は微笑みを浮かべて、質問を問い掛ける。
「お待たせしてすみません、任務の情報収集で少し時間を取られてしまって」
「ホーズンス様、持って行く荷物が結構少ないですね?」
「はい、これで十分です」
「あなたの任務は長期のようですね。アース界に長期滞在でも不備はありませんか?」
「足りないものは向こうで買うつもりです」
嫌味のない言い方だが、質問が少々ややこしい。この男性はゲートの警備官であり、二つの世界往復する際の安全を守るセーフティ業務を務めている。
その時、一人若い女性が向こうの入り口からやってきた。彼女は白地に水色がアクセントなった医者の白衣のような服装。後ろにマントを被り、中身には銀色のベルトを締めている。彼女はヒトミに質問を投げかける。
「あなたは、そのままアース界へ行くんですか?」
「はい、私は体の適応する準備が要らないのです」
「あら、私は忘れてた。あなたは
「ええ、その通りです」
「あなたは、昨日夜更かしましたよね?この機に体内時計を調整するのも良いでしょう」
女性の目はまるで精密な検査機器の様に、ヒトミの体の調子を見透かすことができる。彼女は医療官として、向こうの世界へ行く人々の体のケアーをする。ここからアース界へ行くと、その重力や空気成分等の環境はアトランス界の環境と少し違う、そのため、何の準備もせずに行くと命に掛かる問題だ。だが、彼女は厳しい訓練を受け、環境の変化に耐えられる丈夫な肉体と精神を鍛えた。このままアース界へ行っても、アース界の重力はこちらの三分の一に重いが、普通に適応できるだろう。
ヒトミはそのカプセル装置の形を考えると、眉毛をハの字にさせ苦笑いで言った。
「あはは、やはり遠慮させてほしいです。狭い空間はちょっと無理かも...」
ガートの警備官は何かを確認したように、頷いて軽く笑った。
「なるほど、ではすぐに出発しましょうか。あなたのマスタープロタストをご提示ください」
ヒトミは首に掛けていた飾りの水晶玉を取った。その水晶玉の形は直に一枚の
カードに変わった。トランプの大きさ、厚さは僅か1ミリ程、透明で、淡い黄色の紋様が光っている水晶札だ。
男性はセンサー機元ピュラド装置を持ち出し、ヒトミが提示したマスタープロテタストを接触させると、彼女の個人所属情報、生体情報が空間に投影した。
「身分確認しました、ヒトミ.ホーズンス様。あなたはアジアのどこに行く予定でしょうか?」
「はい、アジア、ヒイズル州の
「分かりました。では、気持ちの準備ができたら、ゲートへ登ってください」
「はい!」
男性はヒトミに向かって一礼にして、祝福の言葉を送った。
「創造主の霊性と叡智を汝に与えよ」
あまり馴染みのない合言葉に、ヒトミは苦笑いで相槌する。
「え、えっと、汝...常に
警備官は目を細めて笑って云う。
「いかにも。相手に最高の祝福を与える言葉はほかにはありません」
「まあ。礼を言いますね」
ヒトミは階段を昇った。台の最上階では青い光の球が宙に浮かんでいる。先の警備官は杖のような物を呼び出し、ゲートを作動させた。ホールの周りの壁の紋様が光っている。凄まじいエネルギーが六つの柱に注ぎ込まれた。一般人には耳で聞こえない鋭い音が響き、柱の尖端の水晶も光っている。真中の青い玉がどんどん膨張し、わずかな時間で直径2メードル程の扉に変貌した。
涼しい風に、サラサラと金髪が吹かれている。ヒトミは振り返らずにゲートに足を踏み入れる。やがてその姿は青い光に消えた。
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