少女と巾着袋

 その翌日、レティはオリバーに聞いたことがあった高めの茶葉を取り扱う店へと向かった。


 店内に入ると、花や茶の匂いが充満した華やかな場所だった。


 自分が場違いな雰囲気に気付いたが、勇気を振り絞って受付をしている女性に話しかけた。


「あ、あのぅ。」


「何かしら。 何か買うものでも? それとも冷やかし?」


「い、いいえ! その...リラックスできるカモミール茶があると聞いてきたのですが...」


「あら。 お客さんだったのね、貴族の方かしら?」


「いえ、違います...。 平民ですが、買いに来たのは本当です。」


「ふーん、平民で買いに来るなんて滅多にないことだから良いけど。 それでカモミール茶だったわね? どれほど欲しいのかしら?」


「すみませんが、この...ちょっと汚いですが巾着に入ったお金で支払える分だけお願いできますか?」


「え? こんな綺麗な巾着袋なのに...? まぁ良いわ、これくらいなら1袋は買えるわ。 ご両親にあげるのかしら?」


「いえ、ご近所に住んでいるお婆さんに、です。 最近ゆっくりできていないらしいので、買ってあげようって思って来ました。」


「へぇ、もし良かったらティーカップも購入するかい? 安くしておくよ。」


「いえ、ウチに置ける場所がないので要らないです。 本当は買おうと思っていたのですが、ちょっとトラブルで減ってしまいまして...エヘ」


「そ、そっか。 この巾着袋は貰えるのかしら?」


「えっ。 はい、気に入ってもらえたのなら...」


「これって自作なの? なんだかほつれが目立つけど...」


「はい! そのお婆さんに教えていただいて、作ってみたんです。 でも、もう帰れないだろうし」


「何かあったのかい?」


「その昨日、兵士の方がいらした時にトラブルを私が起こしてしまって...。もう店では働けないから出て行こうかと、この街から...」


「えっ。 出るの? 1人でかい!?」


「はい、実は身寄りがないので。 お婆さんがいたんですけど。 仕事が忙しいみたいで、いつ帰ってくるかも分からないんです。 だから...」


「感謝の気持ち...って訳かい?」


「はい。 それで売ってもらえるのでしょうか?」


「ん? ああ、良いぞ。 持てるかい!?」


「はい。 ...ありがとうございます、お元気で。」


「...え、えぇ。」


 レティは店を出ると、携帯食料を冒険者ギルドの窓口で爆買いして受付に驚かれたが、気にせず帰路に着いた。


 レティは買った茶葉をお婆さんの部屋へ持っていくが、今日も帰ってきていないらしい。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 一方、茶葉を取り扱っている店の受付嬢は先程の少女を思い浮かべて、1人呟いた


「さっきの話、ちょいと調べてみるか。 気になるし...」

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