少女と借宿

 既に夕刻を過ぎた頃、借宿に戻ってくると、取りに来た時に散らかしたままだったことに気付いたレティは片付けを始めた。


 テーブルを元あった場所に戻したり、汚れてしまった床を井戸から汲んだ水を使って綺麗にしながら、これまでのことを思い出していった。


「よくここでアズと魔法で遊んだなぁ。」


 アズからの紹介では自身が魔法使いだと教えてくれたが、始めは胡散臭いお兄さんと感じていた。


 それでも話していくにつれて、打ち解け合い、フレアお婆さんと知り合いであったことを知ると、レティはなんだか胡散臭く思っていたことがおかしく感じてしまった。


 そして、偶に魔法を手品のように遊ばせてくれたことを懐かしんだ。


「貯めたお金でお婆さんにはティーカップを買ってあげようと思っていたのに...」


 ある時、買い出しをする中でお婆さんが陶器屋で眺めていたティーカップがあった。


 平民でも簡単には手の出せない金額だったが、お婆さんが頬を赤らめていたのを知ってから貯め続けていた。


 しかしそれも、今となっては買うこともできなくなってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る