第25話 お金がない ※アーヴァイン王子視点

「ど、どういうことだ!? 金が回収できない、というのは!!」


 執務室で、私は思わず怒鳴り声を上げていた。大声で叫んだ後、報告を持ってきた大臣の男性を睨みつける。私の部下である彼の顔色は真っ青になっていた。唇を強く噛みしめていて、血が出てしまいそうなほど強く。必死になって恐怖に耐えながら、震える声で事情を説明する。


「恐れながら、殿下。数々の計画に資金を融資していたのは、商会の方々です」

「それがどうしたというのだ!! そいつらが、金を返さないというのか?」

「違います。もともと、商会の資金だったので。王家は、ほんの僅かしか出資をしていないのです。なので、計画を中止しても資金の回収は不可能だと……」

「なんだとぉおおっ!!!」


 怒りに任せて拳を振り下ろし、机に叩きつける。大きな音を立てて、私の手が痛んだ。だが痛みよりも腹立たしさの方が上回っていて、全く気にならなかった。


「ふざけるな!!!!」


 私が机の上にあった書類を投げ捨てると、報告の内容が書かれた紙が宙を舞った。そのまま床に落ちて、バラバラになってしまう。


「中止にした計画は、王家主導の事業だろう!」

「形式上は、そうでした。ですが実際は、殿下の元婚約者だったクリスティーナ伯爵令嬢と彼女の仲間である商会などが主導していました。それは、殿下もご存知のはずでは」

「違うッ! あの女が勝手にやっていたこと。私に、嘘を教えていたんだ。だから、責任は全てあの女にある。私は悪くない」


 そうだった。あの女は、勝手に王族の名前を利用して商売をしていた。いくつも、無駄な計画を立案して、やりたい放題で実行に移していた。事前に説明があったが、私は納得していなかった。それなのに、彼女は独断専行して無駄遣いを繰り返した。


「……とにかくですね、資金の回収は不可能です。計画に費やされた資金は、商会のお金ですから」

「それなら! それを、私の計画に出資するように命令しろ」


 そうだ。あの女の計画は中止させたので、商会の資金が余っているということだ。余った分を、私が新たに計画した住宅の建築費に当てればいい。それで、今回の件は解決するはず。そうなるはずなのに。


「それは、無理です」

「なぜだ!」

「彼らは、クリスティーナ伯爵令嬢の提案した計画だから出資したと。新たな計画については、まだ不明な点も多くて出資することは出来ないという回答が……」

「なんだとっ!? そんな馬鹿なことがあってたまるかぁあああっ!!」


 またしても机を叩きつけて叫ぶ。今度は手だけではなく、全身が痛かった。


「それに……。クリスティーナ伯爵令嬢の計画を中止するために、取引を打ち切ってしまった業者も多数います。今更、変更するのは難しいかと……」

「くそぉ……!」


 なんで、こんな事に。全部、クリスティーナが悪いんじゃないか。あの女さえいなければ、こんなことにはならなかったはずだ。どうして、私ばかりが苦労しなければならないんだ?


 いや、違う。彼女に責任を取らせればいい。こうなってしまったのは、彼女が原因なんだから。


「今すぐ、クリスティーナを呼び出せ」

「え?」

「ここに、クリスティーナを連れてくるんだ。こうなってしまった原因である、あの女に全ての責任を負わせる。そして、全ての問題を解決しろと言ってやる」

「しかし、彼女は既にミントン伯爵家からつい――」

「いいから、早く連れてくるんだ!!」

「ッ!」


 何やら文句を言っている大臣に、厳しく命令する。すると彼は、慌てて部屋を出て行った。一人になった後、椅子に深く腰掛ける。疲れているせいなのか、頭がボーっとしている気がした。目を瞑って天井を見上げる。


「面倒なことばかりだ……」


 思わず、愚痴をこぼす。あんな女を王妃にしないために婚約破棄したというのに、また問題が発生し始めた。あの女のせいで、せっかくの計画が狂わされてしまった。


「許さないぞ。絶対に……」


 私は、小さく呟いた。

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