第24話 衰退する王都 ※ロアリルダ王国民視点

 王都は、とても静かだった。 活気づいていた街中が、今では薄暗く淀んでいた。人が居なくなって、賑わいが消えてしまったのだ。


「おい」

「おう」


 すっかり寂れてしまった酒場に、一人の客がやって来た。店のマスターに親しげに挨拶する男性の表情は、とても暗かった。そして、挨拶されたマスターの方も元気がなかった。


 疲れた様子で椅子に腰かける男性が酒を注文する。酒を飲みながらポツリポツリと話し始めた。


「景気は、どうだ?」

「見ての通り、閑古鳥さ」

「そうか」


 王都にある、多くの酒場が同じような状況だった。客が来ない。そして、この店も例外ではない。以前は、建築の作業員達が多く立ち寄っていたのだが、今は見る影もない。一斉に計画が中止されて、仕事を失ってしまったから。酒場に行く余裕がないので、誰も来なくなってしまったのだ。


 その男性は、マスターの話を聞いて溜息を吐いた後に、グラスに入った酒を一気に飲み干した。それから、追加の酒を注文する。


 マスターから渡されたグラスを手に取り、暗い雰囲気に包まれる店内で男性は淡々と話す。


「俺は、この街から離れることにした」

「そうか。そうだろうな」

「マティアス商会が、労働者を集めている。こことは別の場所に行って、仕事と住む場所を用意してくれるそうだぞ」

「らしいな。話は聞いている」

「他の商会でも、人を集めているそうだ。王都には仕事がないから、別の場所へ移住する者が大勢居るようだな。だから、これからどんどん人が居なくなっていくぞ」


 男性が、カウンターテーブルの上に空になったグラスを置いた。マスターは黙って新しいグラスを渡す。グラスを受け取った男性が、再び話し始める。


「あんたも一緒に行こうぜ。ここに居残っても、良いことなんて何も無いんだろう? 新天地へ行けば、何かしらの仕事はあるはずだ。また、酒場を始めたっていい。このままじゃあ、生活できなくなるぞ」

「ふむ」


 マスターは答えなかった。彼は迷っていた。誘ってくれた男性と一緒に行くべきか、それとも一人で残るべきか。


 この店は、両親から受け継いだ大切な店である。簡単に手放すわけにはいかない。最近は、とても景気が良かったのに。このまま商売安泰だと思っていたら、急に状況が悪化して。このままでは商売を続けていくことが困難になるのは事実だった。


 マスターは、考えた末に決断を下した。


「わかった。この店を畳んで、新しい場所へ行こう」

「そうか! 良かった!」


 大切な店を手放さないと生きていくことが出来ない。マスターの言葉を聞いた男性が嬉しそうな顔をした。



 彼と同じように、王都のあちこちで移住する決意をする者が増えていた。

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