第23話 命令に対する反応 ※とある商人視点

 王国から依頼された、建材の調達に関する商談が終わった後。俺は、仲間の商人に会いに来た。


「また、交渉が決裂したよ」

「そっちもか。ウチも駄目だった」

「やっぱりな」


 情報交換するために話に来てみたら、案の定、どの商会も同じ状況のようだった。お互い、無茶苦茶な条件を提示されたので依頼を拒否した。意見が一致することなく不成立に終わったのだ。


「とにかく、格安で建材を売れだとさ。こんな価格だと、どこも無理だろう」

「少し前なら、出せたかもしれないんだがなぁ……」

「今の王国の状況じゃ、無理だよな」


 次に繋がるような取引であれば、多少は無理をしてでも引き受けることもある。だけど、直前に起きた大量キャンセルによって、どの商会も状況が厳しくなった。次の商談を引き受けるのを躊躇うようになった。そもそも、依頼を引き受ける余裕も無くなっている。


 その結果、王都の物価が急激に高騰した。ますます仕事を受けられなくなった、という悪循環に陥っている。俺達も、その被害者だった。


 こちらの状況を把握せず、向こうは無理難題を押し付けてくる。誰だって、そんな酷い取引など拒否するだろう。


「彼女が居てくれたなら、もっと気前よく払っていただろうな。しかし今の王国は、とにかく安く買い叩こうと必死らしい」

「王子の無茶な命令のせいで、部下も大変そうだしな」

「俺たちも大変だが、あっちも相当大変だろうな」

「あの愚かな王子のせいでな。なんで、あんな事するんだか」


 ロアリルダ王国の状況は、とにかく良くない。王国が提示する無茶な内容の取引に、誰も商売しようとしなくなったから。少し前は、商人にとって良い国だったはずなのに。この国なら儲けることが出来ると、希望に満ち溢れていたのに。


 今や、そんな時代は遥か彼方へと消えてしまった。信用を失った王国からの依頼は、誰もが嫌がるようになっていた。


「マティアス商会も、王都から撤退することを決めたらしい。既に、他へ移る準備を進めているようだぞ」

「流石は、マティアス商会だ。判断が早いな。あそこがそうするなら、俺たちも早く他へ移ったほうが良さそうだよな」

「あぁ。多分、他の奴らも追従して、どんどん王国から離れていくだろうな。ここに残ろうとするのは、一発逆転を狙う博打野郎ぐらいだろ」

「ははっ、違いない」


 俺たちは笑った。そして、すぐに他へ移る準備を始めた。おそらく王国に残ったとしても、儲けることは出来ないだろう。


 危険な試みだから、博打なんて言われる。無理はしないで、素直にロアリルダ王国から離れたほうが良さそうだ。そして、別の場所で商売をする。


 店の移転費用や、商品の運搬費用など諸々の経費が掛かるが、仕方がない。


 王国から離れるとして、次はどこへ行こうか。儲けるために、色々と考えなければならない。

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