第7話 財産目当て ※ミントン伯爵家当主視点

 娘であるクリスティーナの扱いには、いつも頭を悩ませていた。私が何を言っても従おうとせず、自分勝手に行動する。ミントン伯爵家の地位や資産を利用して稼いでいるくせに、ミントン家のためにお金を出そうとしない。


 いや、少しは還元しているのだろうか。けれど、全然足りない。もっと出せるはずなのに。ミントン伯爵家に生まれたことを感謝するべきだ。


 彼女は貴族の娘なのに、商売するのが得意なようだった。いつも商人達と絡んで、色々と活躍して稼いでいるという話を聞く。どれほど稼いでいるのかは、知らない。彼女の親であり、ミントン伯爵家の当主でありながら把握してなかった。


 この事業は、ミントン伯爵家とは一切関係ありませんので。そう言って教えてくれない。本当に傲慢な娘だ。関係ない、だって! 


 その才能で領地を発展させてくれたら、ミントン伯爵家も豊かになるというのに。彼女は領地の運営には関わろうとせずに、独自で稼いでいた。そして稼いだお金は、ミントン伯爵家のものではなく、個人のものだと主張している。


 貴族の娘でありながら、家に貢献しようとしないとは。何度も注意を繰り返すが、従おうとしない。


 アーヴァイン王子と婚約しているのも厄介だった。王族との結婚は、ミントン家にとっても喜ばしいことである。だが、クリスティーナは名を上げすぎた。


 いつの間にかミントン家の名声を通り越して、クリスティーナの名が知れ渡るようになっていた。これでは、ミントン伯爵家が主要ではなくなる。


 どうにかして、クリスティーナをミントン伯爵家の令嬢に引き戻す必要があった。だが、その方法は何も思いつかない。どうすれば良いか考える日々を過ごしていた。


 娘と王子が結婚する前に、どうにかしてミントン伯爵家が介入する余地を作らなければならない。でも、どうすれば。



 ある日のこと、クリスティーナがアーヴァイン王子との婚約を破棄された、という報告があった。何をしでかしたのだ、アイツは。怒りが湧いてくる。


 ミントン伯爵家には恩を返さないくせに、迷惑だけかける。そんな彼女に、どんな罰を与えるべきか考える。


 財産を没収すると命令したらどうか。クリスティーナは素直に従うだろうか。従うとは思えない。保有している財産を隠してしまうかも。そうなると面倒だろうな。


 ならば、ミントン伯爵家に貢献するように強制的に働けと命令すればどうだろう。それも、素直に言うことを聞くとは思えない。わざと失敗して、むしろ足を引っ張るような方向で動き出すかもしれない。そうなると厄介だ。


 ならば、どうするべきだろう。


 ふと、とある記憶が蘇ってきた。クリスティーナが、家族でさえ立ち入ることを許していない部屋が屋敷の中にあった。彼女が個人で警備兵を雇って守るほど、厳重にしている自室だ。


 勝手に屋敷の中に警備兵を招き入れて、家族の行動を制限するなんて本当に失礼な娘だ。


 その部屋に、大金を運び込んでいるのを見たことがある。娘は、その部屋に財産を運び込んで、その中に隠し持っているようだ。しかも、莫大な財産を。


 あのお金を、どうにかして手に入れたい。


 王族との婚約が破談になってしまったクリスティーナに、次の婚約相手を探すのは面倒だろうな。


 このまま、彼女をミントン家に置いておいても貢献してくれない。ならば、家から追い出すのが正解だろう。


 クリスティーナをミントン伯爵家から追放する。それが、最適であると分かった。


 追放を言い渡す時に、ミントン家の物を持ち出すことを禁止する。そうすることで娘が隠し持っている財産を、持ち出すことも出来なくさせる。そして彼女の財産は、全て私の手に入る。


「はっはっはっ!」


 完璧な計画だった。笑いがこみ上げる。面倒な娘だったけれど、最後は役に立ってくれた。ここまで育ててやった恩を返してもらうか。その後のことは、勝手にすれば良い。


 婚約破棄された娘が、ようやく屋敷に帰ってきた。すぐ呼び出して話をする。娘に考えさせる暇を与えない。さっさと仕事を済ませてしまおう。


「アーヴァイン王子に婚約を破棄されたと聞いたが、本当か?」


 部屋に入ってきたクリスティーナに、私は尋ねる。すると娘は、とても不満そうな表情を浮かべた。自分のせいじゃない、というように。本当に自分勝手だな。考えも振る舞いも、何もかも。


 やはり、家から追い出すべきだな。私は、覚悟を決めた。


「はい、本当です。ですが」

「言い訳は許さんッ!」


 何か言おうとする娘の言葉を遮って、話を進める。彼女は失敗した。だから文句を言う事も許さない。こちらが有利な立場にいるので、いつもよりスムーズにペースを握ることが出来た。


「なんということだ! 婚約破棄されて王族との関係を断ち切るなど、ミントン家の損害は計り知れないぞ! どうしてくれる!」

「……どうしてもなにも」

「だから、言い訳は許さんと言っている!」

「……」


 悔しそうな娘の表情を見て、気分を晴らす。だけど、今まで悩まされてきた時間を考えると、まだまだ足りないだろう。


 もっともっと、クリスティーナは苦しむべきなのだ。


「今すぐ、アーヴァイン王子との婚約を取り戻してこい」

「それは無理よ、お父様。あの場には、多くの貴族達が居た。それを撤回するのは」


 無理だと分かっていることを命令して、娘を悩ませる。彼女に無理だと言わせて、満足した。もっと言ってやりたいが、これ以上は止めておく。今すぐ計画を実行したほうが良さそうだと思ったから。


 認めたくないが、娘のクリスティーナは頭が良い。だから、ペースを取り返される可能性があった。そうなる前に、終わらせる。


「ならば、お前は今日をもってミントン家から追放するッ! 今後、ミントンの名を名乗る事は許さん」

「……」


 クリスティーナは黙り込んだ。納得していないか。だがこれは、当主として命じる決定事項だ。彼女に拒否することは許されない。


「わかりました。では、これから荷物をまとめて」

「駄目だ。たった今、お前はミントン家の令嬢ではなくなった。この屋敷にある物を持ち出すことは許さんぞ」


 ここからが大事だ。クリスティーナには、屋敷のものを持ち出すことを禁止する。これで彼女が蓄えてきた財産を、私が手に入れる。


「さっさと、屋敷から出ていけ」

「わかりました。それでは、失礼します」


 今すぐに。そう言うと、悔しそうな表情で彼女は受け入れた。部屋を出ていく娘の背中を見送った私は、計画が無事に成功したことを確信した。


 クリスティーナが自室に残していった財産を、私が手に入れた。王族との縁が切れてしまったのは痛いが、それ以上のものを手に入れたはず。あの娘はきっと、大量の財産を溜め込んでいるのだろう。それが手に入ったのだから。

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