宝永 


城が燃え終わって、そこは焼け野原となって、建物は崩れ落ちていた。

宝永ほうえい様、大丈夫ですか?」

十基に言われて、我に返った。

「ああ」

ロベリアが亡くなった。遺体は、地下から地上に繋がるドアの付近に、焼き焦げだロベリアの骨が見つかった。どこかで、ロベリアが生きているのでないかと期待をした。でも、現実をそうではなかった。ロベリアは亡くなってしまったようだ。一度の会ったこともない顔も知らない相手が死んだ。


 今からひと月前、部屋の壁に黒い丸い影が現れた。それを見た瞬間にモモから下の足が動かせなくなった。

『私は悪魔だ』

壁の黒い影から声がした。

『トラディジーア王国のお嬢様のロベリアを殺さないと、一生、歩くことができない。これは悪魔との契約だ。』

そう言って、黒い丸い影が消えていった。扉をガチャガチャを音がした。バンと音と共に、使用人が入ってきた。

「何かありましたか?」

「えっ、何もないよ」

「宝永様以外の声が聞こえた気がしたんですけど…」

「気のせいじゃない」

「あの、そんな床に座ってどうされたんですか?」

「えっ!? ああ、足に動かないんだよね」

「それは大変です。今すぐ、医者を呼んでまります。」

 急に足が動かくなって、城の人間は慌てふためいていた。別に、一生足が動かなくなってもいいと思ったし、足を動かせるために、ロベリアの死を指示するのも違う気がした。でも心配されて、申し訳なく思って、黒い影の悪魔のことを使用人の神奈かんなにだけに伝えた。

 それまで、城内部では奇病となっていたが、神奈が王の父に伝えてことによって、十基がトラディジーア王国に潜入して、ロベリアを殺害を計画が立てられることになってしまった。我が国<信像しんぞう>とトラディジーア王国は争いがなかったが、侵略を防ぐため1年前に使用人の蘇那そなをカルミアという名で潜入させていた。蘇那の報告によって、計画は実行に移された。そして城を焼き落とすことが実行された。


「なんで、そんな辛い顔をするんですか。悪魔の契約ですよ。ロベリアを殺さないと、宝永様の体が自由に動かすことができなかったですから」と十基は宝永を直視して、言われた。

 3日前の夜深い時に、不意に目を開けると足が動かせるようになっていたことに気づいた。ただその瞬間、ロベリアが死んだ気がした。寝付けないまま、朝になってしまった。 

 部屋にやって来た神奈が「動くようになったですか?」と嬉しそうな声で言われた。さらに、報告を受けた城の人間たちが部屋にやって来て涙ぐみながら『よかった』と言われるとそれはやっぱり嬉しかった。

 だけど、本当にロベリアが亡くなったかを確認したかった。だから、馬車を出してトラディジーア城に向かうことになった。途中まで信像の城に戻ってきた十基と合流することができて、十基は「一緒に着いていきます。」とこちらの馬車に乗って、城に一緒に行くことになった。その時、十基の口から城に火をつけて、ロベリアが殺害計画が実行されたことを報告された。


「宝永様、そんな暗い顔しないでください。」

もう、ロベリアが死を確認をしたことで、敵などが来ない間に城から離れましょうと、信像城に馬車が走り始めていた。

「十基、ロベリアが死んで寂しくないの?」

「いいえ、それは一切ありません。宝永様の足が動くことができたことが何より嬉しいです」

「そう、ありがとう。でも、ロベリアという女性の死と足を動かすことでは釣り合いが何か足りない気がして。」

「釣り合いなど、必要ありません。そんなに心を痛めないでください。」

 十基は、どこか清々しい顔をしていた。

「人の死は、やっぱり悲しいよ。」

「悲しまないでください。それにロベリアは兄のマンサクをナイフで刺して殺した人間ですよ。」

十基は、饒舌に話を始める。兄のことを溺愛していた母親であるクロユリにロベリアは無関心だったそうだ。それで王である父親のオダマキはそんな娘を地下に幽閉させた。母親もロベリアの態度に耐えきれず城を去って行き、十基が城に着いた時には、父親のオダマキは城内で何者かによって殺されて亡くなっていたらしい。

「十基は、ロベリアに父の死を伝えたの?」

「いいえ、それは私の仕事ではありませんので伝えていません。もう、ロベリアのことは気にしないでください」


 

 



 

 

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