悪魔がささやく

一色 サラ

ロベリア

  遠くに見える巨大な外壁。あれのおかげで、命が守られている。トラディジーア王国の王であるパパの方針に、国民から反発が起きているらしい。何度も爆発音が響き渡っていく。次期王であった兄のマンサクが殺されてしまった。兄を亡くしたことでママは娘のロベリアを置いて、城を去って行った。

「しばらくの間、地下に避難しておいてくれ」

パパがそう言って、城の下に建てられた地下室で生活するようになった。外の様子が見れない暗闇と湿っぽい部屋で、1人で過ごす時間が過ぎていく。

本を読んだりして、息をひそめるような日常が続いていく。部屋にはいつも、メイドのカルミアが料理を持ってきてくれるが、それ以外に誰も訪れてくる人間はいなかった。

 カチャとドアが扉が開いていく。怖さで体がこわばっていく。息がひそめた。

「大丈夫ですか?」

ベットの上で、ロベリアは布団に包まっていた。

「誰?」

恐怖と救いを求めて、声を震わせながら言った。

「本日から、ロベリア様の護衛兵として働くことになった十基とおきです。よろしくお願いいたします」

「あっ、うん‥‥よろしく」

 安堵が心を染めた。やっと、パパが用意してくれた。ここ数週間、カルミア以外は誰も来てくれなかったので、知らない人間に怯えてしまう。これまでいた護衛兵のダチュラも居なくなった。カルミアに聞いても、「ごめんなさい。ダチュラのことは、誰からも何も聞いていません」と言われるだけで、ダチュラがどうなったかは一切、分からなかった。

 十基が来て2週間が過ぎた。どこか気持ちが落ち着いて来た。朝はいつでも起こしに来てくれて、昼間は他に仕事があるようで、なかなか、部屋には来てくれなかったが、前まで感じていた孤独のような恐怖は薄くなってきた。

それに、前の護衛兵のダチュラは毎日来てくれなかった。たまに来てくれても、酔っていて呂律が回っていない日もあった。「生きてますね」それだけ言って、いつも部屋を出て行った。あまり会話もしていなかった。なので、十基とおしゃべりできることが楽しかった。少ない会話だったが、ご飯の話や読んでいた本の話をする度に、嬉しかった。

 地上は危険なので、外に出れなかった。パパも会いに来てくれなかった。いつになったら外に出れるのだろう。

「ねえ、十基。いつ地上に上がれそう?」

「もう少ししたら、上がれますよ。反乱がおさまったら、すぐに、地上で生活ができますよ。」

その日と待ち遠しく待つしかなかった。

「では、おやすみなさい。」

「うん、おやすみ」

十基が部屋のロウソクを消して、部屋を出て行った。布団の中をコロコロと転がっても、なかなか寝付けかった。それに、水が飲みたくなって、手にロウソクをかざして、地上の上がる階段の近くにある飲み水を置いてる水置き場に向かった。

 水置き場に近づていくにつれて、息が苦しくなっていく。地上に上がれる階段から煙が下へと降りてくるが見えた。息ぐるしいので口を押さえながら、ロベリアは階段を慎重に上って行った。階段を上りきるとモクモクと煙が充満して、扉も燃えてなくなっていた。だんだん息が苦しくなって、ロベリアはその場に倒れてしまった。


『マンサクを刺し殺せ』





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