第2話
翌日。久しぶりに制服を着ると、少し緊張する。今日から高校3年生。この制服を着るのも後1年だ。大学受験もあるからあまり遊べないだろうけど、楽しい思い出を作れたら良いな。
学校に近づくにつれて、同じ制服を着た人が増えていく。当り前だけど。
通学時間って、そんなに好きじゃない。みんな同じ格好をして、グループで歩いている人達もいれば、一人で歩いている人もいる。そんな集団の中にぽつんといると、自分がいるのかいないのかわからなくなるんだ。これだけ同じ格好の人がいたら、一人ぐらいいなくてもわからないし、私はこの先もずっと、どこにでもいる大多数の内の一人なんだろうな。そうやって、朝から何にもならない承認欲求に苛まれるんだ。
「
声をかけられ振り向くとそこには——
「
——私の友達、
「久しぶりだねー。春実は元気してた?」
「うん、まぁまぁかな。亜希は?」
「いつも通り、部活ばっかだよー。全然遊べなかったわー」
「そっか。まぁ引退したらたくさん遊べばいいじゃん」
「そだねー。遊べたらいいけど、あたしバカだからさ。勉強頑張らないとヤバいかも」
そう言って苦笑いする亜希。
「亜希は部活でそこそこ成績残してるんだし、スポーツ推薦できるんじゃないの?」
「うーん。それが一番楽だとは思うけど」
亜希は陸上部で、確か……長距離の選手だった気がする。自信はない。
「春実はさ、もう進路って——あっ」
話の途中で急に走っていく亜希は、人だまりに突っ込んでいった。たぶん、今年のクラス替えを見ているんだろうな。
後を追って、亜希に声をかける。
「クラスどうだった?」
すると亜希はぱぁっとした笑顔で、
「やった! 春実と一緒! 1年ぶり!」
と言って、私の手を握ってピョンピョン跳ねた。
「ほ、ほんとに? 良かった」
亜希とは一年生の時に同じクラスで仲良くなった。二年生でクラスが離れても、毎日お昼ご飯は一緒に食べるくらい仲が良い。亜希が同じクラスなら、高校生最後の楽しい思い出が作れそうだ。
「2組やってー。行こ!」
「わかったわかった。ちょっと走らないで……」
私の手を引っ張って走る亜希。何だかいつもの日常が戻ってきた気がして、少し安心した。
「お、おはよう。田中」
教室について一息していると、隣の席の人に声をかけられた。
「おはよう、
「おう。同じクラスになるのは久しぶりだな」
「そうだね、よろしく」
「よ、よろしく……」
夏樹——
「春実ー。始業式もう始まるよ。早く行こー」
亜希が近づいてくる。
「あ、藤田くんも同じクラスなんだ。1年よろしくねー」
「中山も同じクラスだったのか。よろしく」
そういえば、亜希と夏樹は去年同じクラスだったっけ。
「春実。ぼーっとしてないで、早く行こ」
「うん。行く行く」
私は体育館シューズを手に取り、始業式に向かうことにした。
始業式とかは、話を聞くことしかできないから退屈。授業中だったらこっそり本を読むこともできるのに。というか始業式や終業式の時間を好きな生徒っているのだろうか。
そういえば、校門に咲いていた桜がとっても綺麗だったな。去年はせつなくんとお花見したんだ。料理なんてほとんどしたことがなかったけど、早起きして頑張ってお弁当を作ったんだっけ。おにぎりに卵焼き、ウィンナーと唐揚げ。初めて揚げ物を作ったから、油が跳ねるのが怖かった。ずっとお母さんに傍にいてもらって、ひぃひぃ言いながら作った。もう二度と料理なんかしないって思ったもん。でも頑張った甲斐があって、せつなくんは美味しいってとっても喜んでくれた。嬉しかった。
せつなくんと見に行った桜はとっても綺麗だったな。私達が住んでる街から電車で30分程の所に桜並木の堤防があって、お弁当を食べたり堤防をゆったりお散歩をしたんだよね。たぶん人生で一番綺麗だったと思う。まだ17年しか生きてないけど、これから先何年生きても私はせつなくんと見た桜が一番綺麗だったと、そう断言する。
桜が満開なのも好きだけど、はらはらと花びらが散っていくのも好き。とっても綺麗なのにすぐに散ってしまうのが切なくて、心がぎゅっとなるから。……切ないものが好きなのかな、私。せつなくんもそうだった。初めて会った時、心がぎゅってなったんだ。
そう思うと、せつなくんって桜の花みたいな人だったかも。楽しい時間は、一緒にいられた時間はほんの一瞬で。すぐに散って——死んでしまったのだから。
もう、せつなくんが死んで、半年が経つ。
せつなくんは、自殺してしまったんだ。
君の笑顔が見たくて僕は、空を飛ぶ 彼岸キョウカ @higankyouka
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