君の笑顔が見たくて僕は、空を飛ぶ
彼岸キョウカ
第1話
月が出ていた。綺麗な三日月だった。
私はベランダの柵に身を預け、ぼうっと三日月を視界に入れていた。時折春らしい生暖かい風が、私を撫でていく。今日は春休み最後の日。明日からは新学期——高校3年生になる。もうあれから、半年が経つ。
「今日は三日月だね。綺麗だよ」
月の中では三日月が一番好き。あの、細くて消えてしまいそうな、切ない感じが。
『僕は満月の方が好きだな』
気づけば、せつなくんが横に立っていた。少し攻撃的な目をして、三日月を見ている。
「なんで満月の方が好きなの?」
答えはわかりきっているのに、私は毎回同じことを聞く。せつなくんは一度言ったことしか言えないんだ、もう。それでも、せつなくんと一緒にいたいから。
『だって、満月以外は欠けているじゃないか。欠けているものは見たくないんだ、あまりね』
せつなくんは決まって同じことを、もう何回聞いたかわからない答えを、呟いた。
せつなくんは完璧主義者だ。完璧でないものは好きじゃない。テストでどんなに良い点をとって学年一位になっても、100点じゃないと意味がないと、せつなくんはよく言った。何もしていないダラダラとした時間を嫌って、いつも本を読んだり勉強したりしていたな。そういえば、せつなくんはあんなに完璧を求めて、将来何になりたかったんだろう。
「なんでそんなに完璧を求めるの? せつなくんは将来、何をしたかったの?」
私の声は届かず、せつなくんはただ三日月を見ているだけ。
「完璧じゃない私のことは、好きじゃなかったの?」
私にくれたあの言葉も、あの笑顔も、全部嘘だったのかな。
「……なんで、あんなことしたの」
『…………』
一人呟いた声は虚しく、静かに心地いい風が吹いた。やっぱりだめだ。初めて聞くことは何も答えてくれない。
完璧を求めて頑張っている所も、大人びているけど笑うと少年になる所も、何かを悟ったように少し悲しく寂しそうな目をしている所も、全部、全部好きだったのに。もっと、もっと一緒にいたかったのに。どうして……。
気づけばここには、私と三日月しかいなくて。親の「もう寝なさい」の声に、私はベランダを後にした。
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