第9話 そうして心無き少年と未来無き少女は誓いを立てる。

「はい。三神君は、コーヒー飲める?」

「はいすみません。ありがとうございます」

「ふふっ。はい、希空。美愛。あなた達は紅茶で良いかしら?」

「うん!」

「ありがとう」


今、私たちは、お母さんを加え、私、美愛。そして蒼の4人でお茶を飲んでいる。


「それで三神君。あなたは、希空と付き合っているのよね?」


お母さんが、蒼に問う。


「はい。真剣にお付き合させてもらってます。まあ恋人になったのは数日前ですけど」


蒼は、包み隠さずをお母さんに言った。


「希空は、三神君で良いの?」


お母さんは、私にも問いかける。


「うん。私は、この人しか。蒼しか考えられない」

「そう・・・。じゃあ良いわ。認めてあげる。私も希空があんなに可愛い顔してるのを見るのは初めてだったし」

「お母さん!?」


お母さんが言ってるのは、前に蒼に保健室に運ばれた日の事だ。


「希空?」

「蒼は聞かないで!!」

「あらあら駄目よ。隠し事は」

「そうだよお姉ちゃん。お義兄さんに迷惑かけちゃ駄目だよ」

「美愛まで~」

「ははっ」


お母さんと美愛に蒼の事を認めて貰えてよかった。


「それで三神君は、希空のどういう所を好きになったの?」


そういえば、私は話したけど蒼からは聞いてないかも・・・。


「そうですね。俺は、希空さんの心に惹かれました。彼女の温もりは、俺には無い者でしたから」

「そう・・・。希空」

「ん?」

「三神君を大切にしなさい」

「うん!」

「そして三神君」

「はい」

「短い時間かもしれませんが、希空をよろしくお願いします」

「はい。必ず幸せにしてみせます」


もはや結婚の挨拶だ。

でも蒼の目は本気だ。

本当にこういう所に惹かれたんだよね。


「ふふっ。じゃあ今日は泊っていかない?」

「着替えが無いですので・・・」

「じゃあ買いに行きましょう!!」

「はい?」

「お母さん!?」

「お義兄様行きましょう」

「美愛も!?」

「ですが、お金が・・・」

「そんなの私が出すに決まってるじゃない」

「ですが・・・」

「ほら行くわよ」

「行きましょうお義兄様」

「希空。助けて」

「良いんじゃない?私も賛成だよ」

「えぇ・・・」


こうして蒼のお泊り用の服を買いに行くことになった。










「なあ希空」

「なあに蒼」

「本当に泊るのか?」

「当たり前でしょ。お母さんもだけど、美愛まであんなに乗り気なんだから」


私たちは、今、蒼の着替え等を買いにショッピングモールに来ている。


「確かに、なんで妹さんまで乗り気なんだ?」

「ふふっ。気に入ってくれたみたいだね」

「そうなのか?」

「うん」


美愛は、蒼の事が気に入っているみたいだ。

お兄ちゃんに憧れていたのかな。


「お義兄さん!!」

「んー。どうしたんだ?」

「頭、撫でて欲しいです!」

「ちょっと!!」


美愛ったら何を言ってるの!?

いくらお兄ちゃんに憧れがあるとはいえ、それは駄目だよ!!


「ん?そのくらいなら・・・」

「だめ!!」

「むぅぅぅ・・・。お姉ちゃんが言うなら我慢する」


思わず止めてしまった。


「希空がやめろと言うならやめるよ。美愛ちゃんも希空を心配させちゃだめだぞ」

「はーい」


恥ずかしい。

蒼の前で大きな声を出してしまった。


「希空」

「な、なに」

「俺は、希空が俺の事を好きでいてくれる限り嫌いになる事はないよ」

「もう・・・」


蒼は、よく気付いてくれる。


「ねぇ蒼」

「なんだ?希空」

「好きだよ」

「俺もだ」


「あらあら仲が良いわね」

「お姉ちゃんとお義兄さんはお似合いです!」









「じゃあ三神君は、希空の部屋で休んでてね」

「分かりました」

「ほら、案内してあげなさい」

「はーい。じゃあ蒼。行くよ」

「ああ」


私は、蒼を部屋まで案内する。


「ここだよ」

「なあ自然とついてきたが、入って良いのか?」

「良いよ。蒼にだったらね」

「そうか。じゃあ失礼します」

「うん。どうぞ」


蒼を私の部屋に招き入れる。


「あんまり見ないでね。恥ずかしいから」

「あ、ああ」

「「・・・」」


やばい。

思ったより緊張する。


「ん?この写真って・・・」

「んー。ああ中学の頃だね。懐かしいな」

「バスケ部だったのか?」

「そうだよー」


中学の頃は、まだ病気だという事を発覚してない時だ。


「そうだったんだな・・・」

「うん。・・・あれ?。そういえば、蒼ってバスケ上手いよね?」


何度か友達から聞いたことがある。

三神蒼はバスケ部に勝ったという話だ。


「上手くは無いよ。ただ中学三年間はバスケ部だっただけだよ」

「蒼もバスケ部だったんだ」

「まあな」

「高校じゃどうしてやらなかったの?」

「まあチームプレイが嫌になったからかな」

「そうなんだ・・・」


そうだ。

もうこの人は他人を信じられないんだ。


「まあ希空とだったらやっても良いかもな」

「えっ・・・?」

「いや、まあ無理なら良いんだけど。というか希空の体調を悪化させるわけにはいかないしな」

「いや!やる!!」

「えぇ!?」


蒼とバスケすることも、死ぬまでにはやりたい事の一つだ。

絶対にやる。


「明日、やろうよ!」

「やるって言ってもどこで・・・」

「そうだねぇ。じゃあ駅近くのアミューズメント施設に行こうよ。あそこにはバスケコートもあるし」

「本気か?」

「本気も本気。超本気だよ」

「はぁ・・・。分かったよ」

「分かればよろしい」


明日の予定が決まった。


「というか希空。気になってたんだけど」

「どうしたの?」

「ぬいぐるみ多いな」

「昔、よくゲーセンで取ってたの」

「なるほどなぁ。なあ触っても良いか?」

「良いけど・・・。どうしたの?」


蒼は、ぬいぐるみに優しく触れながら答えた。


「俺ってさこういうモフモフしたものが好きなんだよな。触っていると落ち着く」

「そうなんだね」


モフモフ・・・モフモフ・・・。


「ふふっ。本当に好きなのね」

「ああ」


彼は、黙々とぬいぐるみに触れている。


「ねぇ蒼」

「ん?」


ぎゅぅぅ・・・。


「希空!?」

「じっとしてて。今の蒼は、私のぬいぐるみ」

「えぇ・・・」


後ろから蒼に抱き着く。

彼は、抱き着かれた瞬間は驚いたようだったが、今はじっとしてくれている。


「温かい・・・」

「そうか」

「うん」


ハワイでは同じベッドで寝ていたけど、緊張して彼の温もりどころでは無かった。

でも、今なら分かる。

蒼の背中の大きさ。

蒼の温もり。

蒼の匂い。

蒼の全てが分かるような気がした。


「すぅ・・・」

「希空?」

「すぅ・・・すぅ・・・」

「寝たのかよ・・・」











「むぅぅぅ・・・」


ゴソゴソ・・・。


「んんん・・・。はっ!今何時!?」


時計を見るとそこには18時を指していた。

確か買い物から帰って来たのが15時くらいだった気がする。


「すぅ・・・。すぅ・・・」

「蒼?」


私は蒼に抱き着いたまま寝落ちしていたみたいだ。

でもベッドで横になっているという事は、蒼が運んでくれたのだろう。

そしてその蒼は、ベッドの横で寝ていた。


「全く。気を遣い過ぎよ」


毛布を彼にかけてあげる。


「ふふっ。寝顔は女の子みたいね」


彼の寝顔をまじまじと見つめる。

そうしてみると意外に知らない事が見えてくる。


「睫毛長いんだね・・・」


彼の顔を近くで見ようと近づく。


ドクドクドク・・・。


心臓の鼓動が早くなっている気がする。

持病が悪化したのかな。

いや、違う。

この感覚はきっと・・・。


「まだ蒼にドキドキしちゃうよ・・・。全く責任取ってよね」


誰にも聞こえない声で呟く。


「今なら良いかな・・・」


ちゅっ


「どうしよう。もう蒼の顔が緊張して見れないかも」


コンコン・・・。


「っ!!」


ガチャ


「お姉ちゃん~。ご飯が出来たんだって~」

「う、うん!!分かった!」

「ん???もしかしてお取込み中だった?」

「違うから!!」

「そっか。お義兄さんは、寝てるね」

「うん。私に付き合ってくれてるから疲れちゃったのかも」

「ふふっ。でも良い人見つけたね」

「うん。でもこれ以上好きになったら未練が残っちゃうなぁ」

「そうかもね。でもさ、お義兄さんって本当にお姉ちゃんの事好きだよね」

「えっ?」

「だってお姉ちゃんがお義兄さんの事を好きでいる限り付き合うって言ってるんでしょ?それって、お姉ちゃんの優しさを見抜いているからじゃないの?」

「どういう事?」


私は、美愛の言っていることがいまいち理解できなかった。


「だってさ、多分だけどお姉ちゃんってお義兄さんの事を苦しませないように、死ぬ前に別れるつもりでしょ」

「そんな事は・・・」

「無いと言える?」

「・・・」


美愛の言う通りだ。

多分というか確実に別れを告げると思う。

蒼は心が無いとは言うが、また芽生え始めている気がする。

時折、見せる優しい笑顔。

これは、まだ彼が人間である証拠だ。

多分、目の前で好きな人を失ったら今度こそ心が・・・。

だからこそ、私は彼に辛い思いをさせたくない。


「多分だけどお義兄さんは、その別れを告げるであろうことを分かって、お姉ちゃんに逃げ道を与えてくれたと思うよ。お義兄さんだけが傷つくために」

「そう・・・。全く心が無いくせに何やってんだか・・・。馬鹿・・・」

「ふふっ。お姉ちゃんも好きだねぇ」

「決めた。私、絶対に別れない。死ぬときは彼に看取ってもらう。それが、彼を苦しめるとしても」


絶対に私から別れを切り出してあげてやらないんだから。


「じゃあほらお義兄さんを起こしてね。お父さんも帰って来てるんだから」

「そうなの?蒼には言ってないのに・・・」

「まあ遅かれ早かれこうなってたし、お義兄さんなら大丈夫でしょ」

「そうかなぁ」


私は、蒼を起こす。


「寝落ちしてた・・・」

「ふふっ。おはよ」

「・・・ああ。おはよう希空」

「ご飯が出来てるから行きましょう」

「そうだったのか」

「うん。あとお父さんも帰って来てるから」

「なっ・・・。まあ最終的には話さないといけないからな。仕方ない」

「そう・・・」


本当に蒼って優しいんだから・・・。








「はじめまして。希空さんとお付き合いさせて頂いてます。三神蒼と言います」

「そうか。君が・・・」


今、蒼とお父さんが挨拶を交わしている。


「君の事は、希空から聞いてるよ。希空の病気を知ってもなお、態度を変えなかったそうだね」

「はい・・・」

「別に責めてる訳では無いからね」

「あなたの言い方が悪いわよ」

「なっ!?そうだったのか・・・。これは失礼した」

「いえ。言いたい事は分かりますので・・・」

「うむ。まあこれだけは聞かせてくれ」


お父さんが真剣な顔で蒼を見つめる。


「希空の寿命の事を知ってるそうだが、それでもなお付き合おうと考えているのか?」

「はい。真剣に希空さんと付き合い、結婚まで考えています」

「そうか・・・」

「はい」

「分かった。二人の結婚を許そう」

「ありがとうございます」

「えっ!?」


思わず声に出してしまった。


「良いの!?」

「何だ希空。断るとでも思ったのか?」

「う、うん・・・」

「希空が認めた男なんだろ?それを断る理由があるか?」

「でも良いの?」

「良いと言っているだろう。それに結婚したいなら学生の内でも良いんじゃないのか?まあ書類とかめんどくさそうだが・・・」

「分かった。じゃあする。蒼も良い?」

「俺は構わないぞ。時間も惜しいくらいだからな」

「うん!!」


明日、婚姻届を貰いに行こう。

それからバスケもしなきゃだし。

明日が待ち遠しい。







「ふぅ~。すっきりした」

「っ!!」


夕食を済ませ、再び部屋に戻っていた。


「なあ希空」

「んー?」

「薄着すぎない?」

「そう?こんなもんでしょ」

「そんなもんなのか」


こんなもんなわけがない。

今の私の格好は、ネグリジェを着ている。

それもかなり露出のある。


ぎゅぅぅ・・・。


「希空。寒いなら布団にでも入ってろよ」

「ねぇ。私ね蒼の事好きなの」

「・・・ああ」

「どうしようもないほどにね」

「ああ」

「だからさ。私を最期まで見てて欲しい」

「ああ」

「愛してるよ蒼」


私は、思いを全て伝えた。


「希空」

「うん」

「俺も愛してる」

「うん」

「絶対に一人にしてやるもんか」

「うん」

「最期まで希空を支えるよ」

「うん」

「俺と結婚してください」

「ぐすっ・・・。うん」


思わず涙がこぼれた。

勢いで結婚しようとしていたため、こうしてはっきりプロポーズしてくれて嬉しかった。


「責任取ってね。蒼」

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