第8話 心無き少年は未来の有る妹と出会う
「お母さん、本当にお姉ちゃんを行かせて良かったの?」
「私は出来る事をやったまでよ」
白夜高校一年生。
得意教科は、理系科目。
苦手教科は、文系科目。
望月希空のたった一人の妹だ。
「でもよくお姉ちゃんの友達は一緒について行ったね」
「希空も行動力はあるけど、彼もよくやるわよねぇ」
「えっ!?彼って男なの!?」
「あっ・・・。これ言っちゃ駄目だっけ?」
お姉ちゃんに彼氏できたんだ。
頑なに作ろうとしなかったのに・・・。
相手はどんな人だろう。
お姉ちゃんが旅行に行って三日目となった。
今日帰って来る予定だ。
お姉ちゃんの相手も気になる。
「早く帰って来ないかなぁ」
私は、一人つぶやく。
お姉ちゃんが帰って来るのが待ち遠しい。
「ただいま~」
「お邪魔します・・・」
玄関から声が聞こえた。
一人は聞き馴染みのある声だった。
「おかえり!!お姉ちゃん!!」
「うん。ただいま美愛」
私は、お姉ちゃんに抱き着く。
「美愛、今は離れてね。話したい事もあるから」
「うん。分かった」
「じゃあ話すね。こちらに居るのが、私の彼氏の三神蒼くんだよ」
「初めまして。三神蒼です」
三神蒼さんは、自己紹介してくれた。
「それでこちらが私の妹の望月美愛よ」
「望月美愛です。お姉ちゃんがお世話になっております」
私も自己紹介をし、頭を下げた。
「いえいえ、自分の方が希空にお世話してもらってるというか」
「そうだね!私がお世話してるね」
「そういうのは本人が言うもんじゃないんだからな」
「えー」
お姉ちゃんたちの会話は、楽しそうだなと思った。
「ふふっ」
私は、思わず笑ってしまった。
「ねぇ私の妹に笑われたよ~」
「仕方ないだろ」
「えー」
久しぶりにお姉ちゃんの楽しそうな姿を見た気がする。
お姉ちゃんの余命宣告がされてからは、心の底から笑ったり楽しそうにしてる姿は見ていなかった。
多分、彼だったから引き出せたんだろう。
「あの三神さん」
「はい」
「お姉ちゃんをよろしくお願いします」
「分かりました」
「美愛も蒼と仲良くしてくれたら嬉しいな」
「うん。では三神さん姉妹共々よろしくお願いします」
「美愛さんって希空と比べるとしっかりしてるな」
「自慢の妹だからねぇ」
「あれ?俺の伝えたいことが分かってない?」
「んー?何だー?浮気かー?」
「誰がそんな事言ったよ・・・」
何だろう・・・。
三神さんは、お姉ちゃんが認めた人だから優しい人なんだろう。
それに、お姉ちゃんが昔言ってたことを思い出した。
『私は、病気の事を知っても態度を変えない人と付き合いたいな』
こんな事を言っていたのだ。
だから多分三神さんは、お姉ちゃんの病気の事を知ってる。
知ってるのにも関わらず、三神さんはお姉ちゃんと付き合っている。
「あの。三神さんは、お姉ちゃんの病気の事をは・・・?」
「知ってる。ちゃんと希空から聞いた。病気の事も余命の事も」
「余命の事もお姉ちゃんが話したの?」
「うん。そうだよ。私が全部話した」
「そっか。じゃあ三神さんは信用出来るね」
「うん。私が保障するよ」
「分かった」
お姉ちゃんが信じたのなら私は何も言うまい。
「それでお姉ちゃんは、三神さんと結婚するの?」
気になったから、思い切って聞いてみた。
「んー」
「俺はしても良いと思ってるが、希空次第だな」
「気を遣ってるの?」
「いや、そういう訳ではない。ただ後悔するなと言っているんだ」
「そっか。じゃあ結婚する。悠って誕生日いつ?」
「俺は5月17だぞ」
「そっか。じゃあ出来るね」
「は?」
「私も5月生まれだから。5月16日だよ」
「そうだったんだ」
「という事で役所に行こう。婚姻届を貰いに!!」
「また急だな」
「善は急げって言うでしょ」
「分かったよ」
「分かればよろしい」
どうやら今日、結婚するみたいだ。
「それでお母さんはどこ?」
「お母さんなら買い物に行ってるよ。もうすぐ帰って来ると思うけど」
「じゃあ結婚の挨拶しよっか」
「おいおい。私服だぞ。こういうのってしっかりとした服装じゃないといけないんじゃないのか」
「良くないよ。そんな悪しき習慣に惑わされてたら」
「悪しき習慣ってほどじゃないだろ。それにあれは一種の決意表明に近いぞ。あなた方の娘さんを死ぬまで幸せしてみせる的な」
「そうなのね。じゃあ着替える?」
「高校の制服しかねぇぞ」
「学生だから良いんじゃない?」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ。多分」
本当に息ぴったりだなと思った。
お姉ちゃんと三神さんの会話は、聞いててこっちまで楽しくなる。
「でも大丈夫だよ。そんな着替えなくて。私はその時間すら勿体ないの」
「うっ・・・。そう・・・だな」
「あれ?どうして言葉が詰まるのかな?心が無いのに」
ん?
心が無い?
それってどういう事・・・?
「希空の正論に言い負かされただけだ」
「じゃあ私の勝ちだね」
「そうだな。負けを認める」
「ふふ~ん」
「あの・・・」
「ん?どうしたの?」
「三神さんの心が無いって・・・?」
「ああ蒼の事なのね。気になるの?」
「聞いちゃまずかったですか?」
「俺は別に話してもいいが・・・」
「じゃあ駄目♡」
「ええ・・・」
「お姉ちゃん!!」
「ふふっ。美愛が気になるのはよく分かるけど。それでもダメかな」
「どうして?」
「だって蒼は私のだから」
「そっか」
「うん」
「いや、俺は誰のものでも・・・」
「何?口答え?」
「これから恋人に口答えも許されないなんて」
「そんなに嫌なら私の口をふさいでみなさい」
「じゃあそうするわ」
「ん?」
ちゅっ
「はわわわわわ」
三神さんがお姉ちゃんにキスを・・・。
しかもちゃんと唇に・・・。
「どうだ?塞いだぞ」
「う、うん。なんか驚いた」
「そうか」
「何か凄い・・・」
「美愛さんには見苦しいものを見せたな。すまん」
「いや大丈夫です・・・。それよりもお願いがあるんですけど」
「俺に出来る事だったら大丈夫だけど」
「大したことじゃないので大丈夫だと思います」
私は、三神さんにお願いをする。
「私の事も名前で呼んでくれませんか?」
「名前かぁ」
「駄目ですか?」
「いや、駄目って事はないけど・・・」
「美愛、蒼はね、あんまり女子と話したことないらしいの。高校では何人かと話してるみたいだけど中学の頃はわけあってね」
「まあ俺が努力するよ。えーっと美愛で良いのか?」
「はい。お願いします。じゃあ私はお義兄さんで良いですか?」
「良いけど、それは二人のご両親が俺と希空の結婚を認めない限り無理だぞ」
「私が勝手に呼ぶだけですので、大丈夫です」
「そうか」
私は、三神さんの事をお義兄さんと呼ぶ事に決めた。
でもなぜだろう。
お義兄さんと話していると心地よい。
私って実は、お兄さんが欲しかったのかなぁ。
それとも・・・。
いや、これは無いだろう。
これ以上の関係はなってはいけない。
お義兄さんは、お姉ちゃんの彼氏、後に多分夫になる人なんだから。
「ただいま~」
お母さんが帰って来た。
「おかえり~」
「お帰りなさーい」
「お邪魔してます」
「あら三神君じゃないの。どう楽しかった?」
「はい。おかげさまで。旅行のチケットの方もありがとうございました」
「良いのよ。ペアチケットで期限も迫ってたし」
お姉ちゃんたちは、抽選で当たったペアチケットで旅行に行っていたのだ。
「お母さん!話があるの」
「うん。聞くよ。でも待ってね。今、お茶の準備するから」
そういってお母さんは、キッチンに向かいお茶の準備を始めた。
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