第7話 こうして心無き少年と未来無き少女は恋人となる。
「三神君~。ベッドふかふかだよ~」
「そうっすか・・・」
「元気ないね。熱中症?」
「いや・・・。そうでは無いんだが」
「ん?」
「どうしてベッドが一つしかないんでしょうか?」
「ここしか空いてなかったからかな」
「そうですか・・・」
俺と望月さんは、今ハワイに来ている。
望月さんが行きたいという事で来たのだが、俺でなくても良いのでは?
そんな事言ったら、何故か機嫌を悪くなったため仕方なくついてきた。
俺は、パスポートを持っていなかったため、わざわざこのために作成した。
「あっ!ちゃんと三神君もベッドで寝る事!!」
「いや・・・それは・・・」
「むぅ・・・」
「えぇ・・・」
ハワイで二泊する予定となっている。
それも二人っきりで。
そして泊まるホテルは、ベッドが一つしかない。
「そうだね・・・。付き合ってもない男女が一つのベッドで寝るのはまずいかもね。よし!じゃあ付き合おう!!」
「死期が近くなってやけになっているのか?」
「そうかもね」
「おい」
「うん。でも私ね。三神君なら良いと思ってるよ。お互いに気を遣うことないでしょ。あなただったら私の全てを賭けても良いと思えたの。だから私と付き合ってくれないかな?」
「・・・」
今、どういう状況だ・・・?
告白されてるのか・・・?
「というかね。これで嫌いな人と海外までくるはずないと思うんだけど。その気があって誘ってるんだから」
「で、でも望月さんって彼氏とか作らないんじゃ?」
「確かに前はそうだった。でも・・・それは私の病気や余命の事を知ったら気を遣ってくる人の場合だけであって三神君は違う」
「そうとは限らんだろ。俺くらい気遣いはできるぞ」
「ふふっ。そうかもね。でもあなたは私には嘘をつかない。これはあくまで感情論だけど、そんな気がしたの」
「えぐいほど突然な話だな」
「自然消滅があれば自然発生もあるでしょ」
「ははっ」
「ふふっ」
ここまで来たなら、最後に一つだけ確認しなければならないな。
「それで望月さんって俺の事をどう思ってるんだ?」
「それ私に言わせるの?」
「俺の好きなタイプは、俺の事を好きで居てくれる人なんでね」
「ふふっ。そうだったね。うんじゃあ言うよ。私は、三神君の事が好きです。私と付き合ってください」
「分かりました。心が無くてどうしようもない俺ですが、よろしくお願いします」
「私ばっかり言ってるけど、三神君はどうなの?」
「どう・・・とは?」
「好きなの!?どうなの!!」
「あっ!はい・・・好きです」
やばい。
望月さんに圧倒されて、つい言ってしまった。
超絶恥ずかしい。
「ふふっ。そっか。好きかぁ」
「嬉しそうだな」
「うん!実はね、私が倒れて三神君に保健室に運ばれた時あったじゃん?」
「ああ」
「その時から気にはなってたんだよね。でも私と付き合ったら遠からず辛い思いをさせてしまうから言えなかった。でも、そうは言ってられないほど三神君の事が好きなんだ」
「そっか」
「うん!!」
こうして俺と望月さんは恋人となった。
急展開すぎていまいちついて行けてないが、俺の事を好きだと思ってくれている内は恋人なのだろう。
「というかどこにも行かなくて良いのか?観光とか」
「三神君はどこか行きたい事あるの?」
「いや・・・特には」
「そっか。実は私もノープラン何だよねぇ」
「だろうと思ったよ」
「でもここに来れて良かった」
「そっか」
「うん」
2人でベッドの上で横になっている。
「ねぇ三神君」
「ん?」
「名前で呼んでいい?」
「どうぞ」
「じゃあ蒼。私の事も名前で呼んで」
「希空さ・・・」
「呼び捨て」
「希空」
「うん!!」
女子を名前で呼ぶなんていつぶりだよ・・・。
しかも呼び捨てって。
「蒼。約束というか契約して欲しいんだけど」
「何?何か買わされる?それとも勧誘?」
「そんなんじゃないよ。蒼にしかできない事だから」
「???」
希空が真面目な雰囲気で頼み事をしてくる。
「まずは、お互い嘘をつかないこと」
「それは希空の方がしそうなんだが」
「次に!お互いに気を遣わない事」
「気遣いできる男子だぞ」
「はい!次!!私が死んだら絶対に蒼は幸せになる事!!」
「それはまた難しい相談だな」
「そして最後。私を愛さないで」
「恋人らしからぬ言葉だな」
多分、俺に気を遣っての言葉だろう。
全く・・・もう契約違反かよ。
それでも俺は、その契約を受け入れることにした。
「分かった。その契約を受け入れるよ」
「うん。契約成立ね」
「それでせっかくハワイに来ておいて、ずっとホテルに居るのか?」
「んー。確かにどこかに行った方が良いのだけど・・・」
「面倒くさいなぁ」
「そう言うと思ったよ」
「とりあえず今日は、ホテルで休むか」
「良いよ」
まだ外は明るいが、ホテルでゆっくりくつろぐことにした。
「ねぇねぇ何読んでるの?」
「本」
「は?」
「そんなに冷たい声出さなくても・・・」
「心が無いくせに何言ってんだか」
「まあな」
俺は希空と恋人にはなったのだが、果たして彼女の事が好きなのだろうか?
「蒼?どうしたの?ぼーっとしてるけど」
「ん?ああ何でもないよ」
「ふーん。それで話戻るけど、何読んでるの?」
「小説」
「次にはぐらかしたら・・・しばくよ」
「怖っ」
彼女の圧に負け、俺は真面目に答えることにした。
「まあこれだよ」
俺は希空に手に持っていた本を渡す。
「恋愛小説?」
「ああ」
「蒼が?」
「だな」
「あんまりイメージ無かったなぁ」
「割とこういうの好きだぞ」
「こんな恋愛したいとか思うの?」
「分からん。あくまでフィクションだからな。自分がしたいかと言われると難しいな」
「そっか」
「希空は憧れがあるのか?」
「そりゃあね。私だって乙女なんだから」
「そっか」
「うん」
忘れてた。
希空だって女の子だ。
死期が近くても恋をしたい年頃なんだ。
それにこうして海外旅行もしている。
やりたい事で溢れてるはずだ。
「なぁ希空」
「ん?」
「何かやりたい事ないか?」
「・・・たくさんあるよ」
「じゃあ全部やってみないか?」
「えっ?」
「だからやりたい事全部やろうぜ。これは気遣いでも優しさでもない。ただの自己満足だ」
「ぷっ!!あっはっはっは!!」
「そんなに笑う必要あるか?」
「ううん。そうだね。やっぱ蒼は良いよ。やっぱ恋人にして良かった」
「そうかい」
「やりたい事かぁ。そうだなぁ・・・」
希空は、やりたい事をメモ用紙に綴り始めた。
やりたい事を書き出している希空の姿は、幼い子供のようだった。
俺は、そんな希空の姿を見て、どこか苦しくなった。
どうしてだろう。
何で、こんな奴が死ななきゃならないのだ・・・。
「蒼?」
「ん?どうかしたか?」
「いや・・・。何か辛そうだったから」
「気にするな。それよりも結構書いたみたいだけど、まだあるのか?」
「もちろん!!でも一つだけは多分叶わないかもなぁ」
「何だ?」
「子供が欲しい」
「ぶっ!!」
「噴出さないでよ。本気で思ってるんだから」
「すまん。突然で驚いただけだから」
「そう?」
「やっぱり憧れか?」
「まあね。私は家族にとても愛されてるの。だからこの愛情を自分の子にあげたいと思ったんだ」
「そうか」
「うん。でも多分無理かな。この身体じゃ産んでも、私か私の子どもかどっちかしか生き残れないだろうね・・・」
「・・・」
「だからね。蒼には辛い思いをさせるかもしれないね。私と付き合ってたら幸せな家庭は築けないかもしれない。その覚悟はしててほしいな」
「分かった。俺もそれなりの覚悟を持って希空と生きるよ」
「お願いね」
その時の希空の表情はどこか寂しそうだった。
「あっ!蒼にお願いがあるんだけど良いかな」
「今更、お願いなんて・・・。それで、どうしたんだ?」
「帰ったらさ妹と会って欲しいんだ。私に彼氏が出来ましたってね」
「面倒だけど、避けては通れないイベントだよな」
「もちろん!もし来てくれなかったらある事無い事全部話しちゃうからね」
「是非、妹様と会わせてください」
「浮気?」
「何故、そうなった・・・」
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