第5話 二人は秘密を打ち明ける

「夏休みまであと1週間か・・・」


高校三年生の一学期も直終わろうとしている。

高校生活最後の夏だ。

運動部は、この夏に引退をかけて頑張っているみたいだ。

友だちも運動部が何人かいるが、かなり頑張っているらしい。


「はぁ・・・。帰るか」


少し勉強するため、教室で残って勉強していたのだが飽きたため帰ることにした。

放課後は、特にする事もなく、図書室で勉強も考えたが高校生活で一回も行ったことないため行く気にはならない。

というか、あの空間で集中するのが正直キツイ。


「三神君・・・?」

「ん?」


帰るため教室から出ようとしたところ後ろから声をかけられた。


「望月さん?」

「うん」


声をかけてきたには望月さんだ。

望月さんも友達と勉強してたみたいで、教室に残っていた。


「三神君はもう帰るの?」

「まあうん。勉強飽きたから」

「そんな理由で帰るのね。ふふっ」

「というか体調の方は大丈夫なの?昨日まで休んでたみたいだけど」

「うん。学校に来るくらいまでは体調は良くなったから」

「そうか」

「うん!」


そう言って望月さんは微笑む。

学校に来るくらいまで・・・。

その言い回しにはちょっと引っかかったが、気にしないことにした。

そこは俺から聞くことではない。


「ねぇ。三神君」

「ん?」

「途中まで一緒に帰らない?」

「え?」

「駄目?」

「いや別に良いけど。何故に俺と?」

「この前のお礼を兼ねて、何か奢るよ」

「気にしなくて良いんだけど・・・」

「そう言わずにほら行くよ」

「はぁ」


俺は望月さんに連れられ、教室を出た。

俺は自転車通学のため、駐輪場に一度行き、自転車を取りに向かう。

望月さんは、普段はお母さんに送迎してもらってるらしい。

まあ何かしら訳ありなのは、何となく知ってるし、何も突っ込まない。


「すまん。待たせた」

「ううん。大丈夫。私こそごめんなさい。急に誘って」

「気にしないで大丈夫。それでどこに行くんですか?」

「敬語じゃなくて良いんだけど。まあついて来て。とりあえず私のお気に入りのお店に案内するね」

「分かった」


そうして俺は望月さんに付いて行くことにした。

望月さんは歩きのため、俺も自転車を押して歩いて行く。

二人乗りは危険だからな。







「ここだよ」

「おお」


案内されて着いたのは、喫茶店だった。


「ほら入るよ」

「ああ」


お店の中に入ると、ちらほらお客さんも居た。

人通りが多い訳では無いが、賑やってないわけも無かった。


「お洒落な店だな」

「そうでしょ。とても落ち着いた雰囲気で。一人になりたい時とかによく通うの」

「なるほどなぁ。まあ確かに落ち着くな」

「うんうん」


望月さんも一人になりたい時とかあるんだな・・・。


「あっ!私が奢るから何でも頼んで良いよ」

「いや、そこまでしなくても・・・」

「良いの。この前のお礼。私の自己満足だから」

「・・・分かった」

「うん。分かればよろしい」

「じゃあコーヒーで」

「ここのケーキも美味しいよ」

「そうなんだ」

「うん!」

「じゃあモンブランで」

「分かったー!!」


そうして俺と望月さんは、注文するものを決め、店員を呼ぶ。

お礼とは言え、奢らせるのは気が引けるが諦めるしかないのだろう。







「それでね三神君を誘ったのは理由があるの」

「まあ理由がないなら誘わないよな」


大して話したことのないクラスメイトをお気に入りの店に連れてこないだろう。

とは言っても、俺には何の心辺りもない。

強いて言えば、この前、望月さんを保健室まで連れて行ったことくらいだろう。

だが、あれは俺の自己満足だ。

倒れていたのが誰であろう俺は同じ事をしたに違いない。


「私!三神君の事をもっと知りたいの!!」

「へ?」


何の話だ・・・?


「あっごめん!話が飛んじゃった。あの・・・その・・・」

「望月さん?落ち着いてゆっくりお願い」

「う、うん。そうだよね・・・」


望月さんは、深呼吸してゆっくりと話を始めた。


「私ね。実は病気なの。それも不治の病」

「えっ・・・」

「友達にも何人かには話してるんだけど、三神君にも話したかった」

「俺に?」

「うん。三神君に。私ね三神君の事をもっと知りたいと思ったの。この前さ、私を保健室に運んでくれた日あったじゃない?。あの時三神君と話しててちょっと気になったの。あの時の三神君、笑ってたのに何か抜け落ちているように感じたの・・・。」


望月さんは、俺の事をよく見ている。

たった数回の会話でそこまで見抜いたのだ。

何かが抜け落ちている。

それを気付いたのだ。


「そっか」

「うん。私ね。病気ってのは友だちに伝えているんだけど、余命は言ってないんだ」

「余命・・・?」

「うん。あと5年といったところかな」

「そうなのか・・・」


何故俺にカミングアウトしたんだろう。

俺にはどうすることもできないのに。

同情することもできない。

なんて言ったって俺には・・・。

心が無いのだから。


「それでね三神君の話を聞きたいな」

「俺なんか話聞いても面白くないし、望月さんみたいに重い話もないぞ」

「それでもだよ。だって三神君は私の病気の事知っても同情しないでしょ?」

「望月さんは何でも見通せるのか?」

「少なくとも三神君だけね。それで三神君。あなたは何が欠けているの・・・?」


多分、望月さんは俺の無いものに気付いているだろう。

それでも真正面から聞いてきた。

真っすぐ俺の眼を見て。


「そうだな。言われてもあまりピンとこないかも知れないが、俺には心がない。まあ正確には無くなったに近いかもな。現に、今望月さんの病気の事を聞いたところで俺には何にも感じ無かった。そりゃあ大変そうとは思ったがそれだけだ。同情とは、俺から一番かけ離れたものだと言えるな」

「なるほどね。それが三神君の秘密なんだ。それって他には誰が知ってるの?」

「友達は何人か知ってるな。あっ、あとはせぐぅ先生だな」

「瀬黒先生もやっぱり知ってたんだ」

「気付いていたのか?」

「うん。何となくね。瀬黒先生に聞いたらはぐらかされたし」

「そりゃあ公言するようなことでもないしな」

「というか三神君は、病気の事で聞きたい事は無いの?」

「何か聞いて欲しい事があれば」

「余命の事は?」

「特には」

「どうして?」

「人はいずれ死ぬからかな。実際に俺は、今すぐ死んでもいいと思ってる」


俺は、死というものに対して何とも思っていない。

別に恐怖心もない。

ただ死ぬキッカケがないから、今を生きている。

そんな人間なのだ。


「そうなんだ・・・」

「ああ」

「うん。確かに心が無いね」

「そうだな」

「やっぱり三神君に話して良かったよ。余命の事を友達に言ったら変に心配されたり、気を遣われたりするからね」

「まあ普通そうだろうな」

「うん。でも三神君は同情しない。それだけで私は気が楽だよ」

「そうか」

「うん!!」





お互い、抱えているものを打ち明け、店員さんがやって来た。

注文したものが来たようだ。

俺は、コーヒーとモンブラン。

望月さんは、紅茶とチーズケーキだ。


「ほらじゃあ食べよう!!」

「ああ。そうだな」


そしてそこからは、二人とも黙々と各々が頼んだものを食べるだけだった。







「本当に良いのか?奢ってもらって」

「良いの良いの。だって残り5年だよ?ここで奢っておかないと多分その機会は2度とないかもよ」

「そうとは・・・限るかもな」

「でしょ?」

「ああ」

「でもね。三神君とはこうしてまた話したいな。気遣いとか無く、今日みたいに打ち明けるようにね」

「俺は別に構わないけど。俺もまだ聞きたい事とかあるし」

「そうなんだね」

「ああ」

「うん!じゃあまた明日も良いかな?」

「良いよ。ただし明日は奢るとか奢られるは無しだ」

「分かった」





そして二人はそれぞれ自分の家に帰った。

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