第4話 心無き少年と未来無き少女の関係は進展する。
「それで三神君って趣味とかはあるの?」
「趣味?」
「うん趣味」
「趣味かぁ・・・。強いて言えば読書?」
「どうして疑問形なの・・・」
私は、今三神蒼君と話している。
クラスは一緒だけど、しっかりと話した事はない。
というかもしかすると初めて話すかもしれない。
彼は、友達と過ごしているのをよく見かける。
その時は、笑っているけど一人でいる時は、どこか空虚な雰囲気もある。
「逆に望月さんは何かあるんですか?」
「私?私はねぇ。読書も好きだし、スポーツも好きだよ。特にバスケとか好きだね」
「そうなんですね」
「というか三神君。出来ればもっと気軽に話して欲しいんだけど。敬語を辞めて欲しいな」
「が、頑張る」
「うん!」
彼と話してて分かったことがある。
さっき瀬黒先生と三神君の話を聞いてると一見はクールそうに見えるが実はおしゃべりが好きなだという事。
次に、彼はとても優しい。
多分、この水は私の為に買ってくれたのだろう。
さっきは自販機で押し間違えたと言っているが、おそらく違う。
そして、彼は。
三神蒼という人は何かが抜け落ちている。
彼と少しだけしか話していないが、彼という人間には他に人間にはあるものが無い気がする。
「望月さん?どうかしたのか?」
「い、いや何でもない」
「そうか・・・」
瀬黒先生は、彼の秘密を知っているのだろうか・・・。
「三神。お金渡すから、飲み物買ってきてくれ。私と望月さん。それに三神の分も買っていいぞ」
「はぁ。分かりました。何を買ってくれば良いですか?」
「私は、お茶でいいよ。望月さんは?」
「私も良いんですか?」
「良いよ」
「じゃあミルクティーで・・・」
「じゃあ俺はエナジードリンクでも買ってくるとしますか」
「さらっと高いの買おうとしてるわね」
彼が自販機に向かった。
保健室には私と瀬黒先生の二人だ。
瀬黒先生とはあまり関わりがないが何度かこのように保健室に居る時に話相手になってくれたことがある。
それでもほんの数回しか話した事はない。
「あの・・・」
「三神の事聞きたいんでしょ?」
「気付いてたんですね」
「まあね。それで何が聞きたいの?」
「三神君って去年もあんな感じなんですか?」
「あんな感じと言うと?」
「なんと言えば良いのか分からないんですけど、彼には何かが足りないような気がするんです。でもその何かが足りないのかが分からないですけど」
「そっか・・・。望月さんは、気付いたんだね」
「やっぱり知ってるんですね」
「まあ何となくね。その事は本人も理解しているみたいだしね。去年、聞いたんだけど最初は冗談だと思ったけど、一年彼を見ているとそれが冗談じゃない事を知った」
「それって・・・」
「ここからは機密情報よ。私は、あなたの病気の事を彼には話してない。だからあなただけに彼の事を話すのはフェアじゃないからね。どうしても聞きたい時は、本人に聞いてみたら?」
「分かりました・・・」
それもそうだ。
私だけが彼の秘密を知るなんてフェアじゃない。
だけど、彼に私の病気の事を話したら周りのように同情の目を向けてくるのではないのか。
そう思うとあまり気が乗らない。
仲の良い友人には何かあった時為に、何人かには病気のことを話した。
そうすると私を思ってくれるのは良いんだけど、どこか気を遣いすぎな感じがする。
余命の事は誰にも話していないが、ここまで同情の目をさらされ続けているのに話せるわけが無い。
「買ってきました~」
「うん。お疲れ」
「ありがとう」
「はい。せぐぅ先生はお茶ですね。あとおつりです」
「うん。ありがとう」
「それで望月さんはミルクティーだね」
「ありがとうね三神君。先生もありがとうございます」
「気にしない気にしない」
「それで俺がオレンジティー」
「あらエナジードリンクじゃなかったんだ」
「あれは冗談です」
「そっかぁ」
それからは、また三人になり沢山話をした。
去年の三神君の事とかがほとんどだったけど。
コンコン
「はい」
ガララ・・・。
「こんにちは。望月希空の母ですが、希空は居ますか?」
「あっお母さん」
「こんにちは。養護教諭が今、不在ですので私が事情を説明致しますね。そちらに居る彼が希空さんが倒れているところを見つけここまで運んでくれました」
「そうでしたか。ありがとうございます。お名前を伺っても良いですか?」
「三神蒼です」
「三神さん。この度はありがとうございました」
「いえ。自分は当然の事をしたまでですので」
「そうですか。それでも感謝しかありません」
お母さんが来たため、私は帰る準備をする。
三神君も鞄を持ち、今すぐにでも保健室を出るところだった。
「三神君」
「はい」
「今日はありがとう。おかげで大事に至らなかったよ」
「そっか。それが聞けただけで俺も気が楽になったよ」
「三神君が良ければだけど、家まで送って行きましょうか?」
「お気持ちはありがたいですけど、自転車がありますので」
「あらそうなの。それじゃあお気を付けて」
「はい。失礼いたします」
「三神君!」
「ん?」
「また・・・明日ね」
「ああ。また明日」
そうして彼は、保健室を出て行った。
何故だろう。
心臓の鼓動が早い気がする・・・。
まだ体調が優れてないのかな・・・。
「ふふっ。三神君だったわよね。あの子かっこいいじゃない」
「ふぇ!?」
「ほら帰るわよ希空」
「お母さん!!」
「それでは先生も大変お世話になりました」
「いえ。希空さんも体にはお気を付けて」
「はい」
私もお母さんと一緒に帰路についた。
帰る途中、車の中でお母さんにしつこく質問された。
「三神君ってどんな人なの?」
「うーん。分かんない。でも多分私が知る中で一番優しい人だと思う」
「そっか。あの子には任せても良いかもね」
「何を?」
「勿論希空の事だよ」
「ふぇ!?」
「最後の別れ際、あなたとても可愛らしい顔してたわよ」
「それは!熱があるから!!」
「はいはい。そういう事にしておいてあげますよ」
「もうっ!!」
私は彼の事をどう思っているのだろう。
余命宣告を言い渡され、未来に希望を持っていない私は彼とどうなりたいのだろう。
今を生きるために友達と遊んだりはするが、彼は何か違う気がする。
彼は私をどう思っているのだろう。
多分彼は、私じゃなくても助けてくれていたのだろう。
どうしてこんな体調で学校に来たのかも聞かなかったし。
飲み物も私にくれたり。
彼は誰にでも優しい。
そう感じた。
そのはずなのに、何かが引っかかる。
彼の眼には何が写っているのだろう。
笑顔のはずなのに、何も見てない。
そんな眼をしていた。
私は、三神蒼という人をもっと知りたいと思った。
初めての感情だ。
「ねぇお母さん」
「んー?」
「あの人と三神君と仲良くしても良いのかな・・・?」
「それを決めるのはあなたよ。彼とどうなりたいかはあなたが決めなさい。仲良くなりたいならあなたから歩み寄る必要があるのよ」
「うん」
明日、彼に改めてお礼を言おう。
彼には、私の病気の事話しても良いのかも。
それほど彼の事を知りたいと思えているのだ。
「というかはしゃぎ過ぎて体がだるい・・・」
ベッドに倒れこみ、そのまま眠りについた。
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