第3話 少年と少女は出会う

キーンコーンカーンコーン

「ようやく今日も終わったかぁ」

「三神!!」

「んー?」

「これを職員室まで持って行ってくれないか?」

「俺がですか?」

「ああ。お前は部活もないだろう。インターハイ前だからな。運動部には任せられん」

「分かりました」






担任の言う通りに荷物を職員室まで届けた。

帰るため靴箱に向かう。

靴箱まで向かう廊下はとても静かだ。

この世界には、自分しか居ないのではないかと思えるほどの静けさだった。


「帰りに本でも買おうかなぁ」


そうして歩みを進める。

すると、自分の教室がある方向の廊下に何かが落ちていた。

それを見ただけで何か胸騒ぎがした。

気付けばそちらの方に足を進めていた。


「っ!!」


近づくとそれが物ではないと分かった。


「おい!!大丈夫か!?」


人だ。

人が倒れていた。

周りには誰も居ない。


「おい!!しっかりしろ!!」


顔を見ると、苦しそうにしている女の子だった。

この人を俺は知っている。

同じクラスの望月希空さんだ。


「おい!!」


何度呼び掛けても返事がない。

額に手を当てると、尋常じゃないほどの熱だった。


「ちっ!!」


望月さんを抱え上げ、保健室へと急ぐ。

今居るのは、2階。

保健室があるのは、1階だ。

この状態で階段を降りるのは、危ないかもしれないがそうは言ってはいられない。


「こんな高熱でよく学校に来たな・・・」


そのつぶやきに応えるはずもなく、俺は保健室に着いた。


「すみません!!」


ドアを勢いよく開けるも、先生は不在だった。


「よりにもよって居ないのかよ!!」


望月さんをベッドに寝かせ、保健室の戸棚にある熱さまシートを彼女の額に貼った。

とりあえず先生を呼びに再び職員室へ行く。


「その前に飲み物でも買っておくか」


職員室に向かう途中に、自販機でも飲み物を買いに向かう。


「何が良いんだろう・・・。分からんから水で良いか」






飲み物を買い、職員室へ。

職員室には、部活の顧問をしている先生たちも居るため少なかった。

担任も水球部顧問であるため、ここには居ない。


「・・・というか保健室の先生って誰だ?」


保健室なんて一年生の頃に健康診断の時以来、来ていないのだ。

とりあえず知ってる先生に話しかける事にした。

とは言っても、ほとんど知らない先生ばかりだ。

俺のクラスを担当している先生は、居なかったが去年担当してくれてた先生は居た。


「せぐぅ先生」

「誰がせぐぅ先生だ」


この人は瀬黒先生。

去年、生物の先生として担当してくれた人だ。


「せぐぅ先生って呼ぶ人今までに、三神合わせて二人だけだぞ」

「それは光栄です・・・じゃなくて!!保健室の先生ってどなたです?」


危ない目的を忘れるところだった。


「名前覚えてないのね。まあ白井先生は・・・ってあれ?見当たらないね」

「えっ?」

「入れ違いになったんじゃない?」

「そうですか」

「なにかあったの?」

「まあ。廊下に女子が倒れていたので保健室に運んだんですけど、居なかったので」

「えっ?ちょっと待ってその子の名前は!?」

「望月希空さんですけど」

「一応、私が行く!もしかしたら白井先生が居るかもだけど念のために私も行くわ!」


せぐぅ先生は血相を変え、保健室に走る。

何かあるのはなんとなく気付いた。

だが今はそんな事どうでもいい。

俺も保健室に向かうとする。






「この熱さまシートは?」

「ああ俺が貼りました。

「そうなのね。よくここまで運んでくれた。どこに倒れていたの?」

「3年4組の教室前に倒れてました」

「そう・・・」


今は、俺とせぐぅ先生が保健室にて望月さんの看病をしている状態だ。

保健室の先生である白井先生は、どうやら出払っていたみたいだ。

何で保健室のドアが開いているのかと考えていると。


「そういえば三神。今保健室のドアが壊れてるみたいなの。今週末に修理にくるみたい」

「そういう事だったんですね。でも戸棚とかは・・・」

「戸棚ってこれでしょ?薬品とかが入ってる所じゃないし、多分わざわざ閉める必要もないんじゃない?」

「そういうもの何ですか?」

「多分。別に私は養護教諭じゃないから詳しい事は分からないけど」

「なるほど」


俺は、先ほど買った水を彼女の荷物と一緒に置き、帰る支度を始めた。


「あら?三神帰るの?」

「ここから先は、俺がどうにか出来る訳でもないですし」

「そうでもないよ。私も付きっ切りという訳にもいかないし。それに望月さんの家庭に連絡しないとだから」

「分かりました」

「じゃあここを任せてもいい?」

「良いっすよ。先生には借りがありますからね」

「あの時スマホを没収してないのが三神に対する貸しになるとはね」

「ははっ。そうっすね」

「それじゃお願い」

「はい」


せぐぅ先生は、職員室に戻った。

先生が戻り次第帰る事が出来るが、いつになるものか。

参考書を開き、勉強を始める。


「保健室で勉強するってこんな気分になるんだな」


そんな事を思いながら、ペンを進める。

数学ってどうしてこんなに難しいのだろうと不思議に感じる。

確かにこの学校では俺の成績は上位だ。

だがそれは、他の文系科目のおかげというのもある。

決して数学の点数が低い訳ではない。

あくまで文系科目に比べるとそうなだけだ。

せぐぅ先生が担当の生物は、学年1位だったりもする。

数学だけが毎回他と比べると低い。

まだ志望校を迷ってはいるが、正直推薦でも良いと思っている。


「はぁ・・・。こんな中途半端だから俺自身の意思が無くなっていくんだろうなぁ」


心が無い。

つまり自分というのが無い。

何かに熱中したり、何かを好きになったりという気持ちが時間が経つにつれて無くなっていく気がする。


ゴソゴソ・・・


「んぅ・・・」

「ん?」


目が覚めたんだろうか。

さて何と説明したものか・・・。


「ここは・・・?」

「あ、あの・・・。大丈夫ですか?」

「えっ?」


俺の顔を見ると望月さんは驚いたような表情をしていた。


「あっ。なんかすみません」


思わず謝罪をしてしまった。


「い、いえ。私こそ驚いてしまってすみません」


そう言って望月さんは頭を下げた。


「というか望月さん。体調の方は大丈夫ですか?」

「は、はい。というか私ってどうして保健室に?」

「えっと・・・。教室の前に倒れていたので保健室に運ばせてもらいました」

「そうだったんだ・・・。ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしました」

「いえ。俺はすべきことをしただけですから」

「ふふっ。そうなんだ」

「ああ。そうだ」


望月さんとは、今年から同じクラスなのだが、こうして話すのは初めてだ。

あまり関わりのない二人のはずなのに、会話が弾む。

というか女子とすらまともに話したことないから、同級生なのに敬語になってしまう。

果たしてこれは会話が弾むと言えるかどうかは分からない。


「おーい。三神。望月さんのお母様と連絡が取れたところだ。直に来てくれるらしい」

「せぐぅ先生。遅かったですね」

「ああ白井先生を探していたんだ。そしたら今日は早退なさっていたんだ。お子さんが体調不良らしくて」

「大変っすね。それは」

「そうだねぇ」


せぐぅ先生が帰って来た。

望月さんのご家庭に連絡取れたみたいで良かった。

というか放課後とは言え、保健室に人が居ないって大丈夫なのか。


「あの・・・。」

「ん?ああ!望月さん目を覚ましたんだ」

「はい・・・」

「体調の方はどう?」

「まだ身体が思うように動かないというかだるいというか」

「そう・・・。薬とかは?」

「あっ鞄に入ってます」

「分かったわ。三神、鞄取ってあげて」

「はーい。よいしょっと」

「ありがとう」

「いえいえ」

「三神って性格は本当にイケメンの類だよね」

「せぐぅ先生、今のは聞き捨てなりませんよ」

「一見クールそうに見えるのに」

「それ去年も言ってましたね」


せぐぅ先生とは、去年一年間しか関わりが無いが廊下ですれ違うたびに軽く話をするくらいだ。

時には進路相談。

時にはプライベートな話も。

この学校で信頼している先生の一人だ。

せぐぅ先生からは、前にも俺に似た生徒が居たという話をよく聞く。

せぐぅ先生という呼び方もその人と俺だけらしいし。



「あの・・・水良いですか?」

「あっごめん。これ望月さんにあげる。さっき買った奴だから安心して」

「お金は・・・」

「気にしなくて良いよ。自販機で間違えて押しちゃっただけだから」

「ありがとう・・・」

「三神ちょっとおいで」

「はい?」


望月さんに先ほど買っておいた水を渡し、せぐぅ先生の下へ。

すると、保健室の外に出るように促された。


「それでどうしたんですか?」

「いやあの水。望月さんの為に買ったんでしょ」

「まあ・・・そうですけど」

「言わなくて良いの?」

「別に良いんじゃないですかね」

「それもそうだね。それよりもあの子から何か聞いた?」

「何を?」

「いや。何も聞いてないならいいよ」

「はぁ。まあ俺から聞くことは無いですよ。せぐぅ先生の慌てようから何か訳ありなんでしょ」

「君はよく見ているね」

「せぐぅ先生があからさまなんです」

「そっか」

「はい」


話を終え、再び保健室に入る。


「三神君。水ありがとうね」

「気にしなくて大丈夫ですよ」

「というか三神と望月さんって同級生だよね?何故に敬語?」

「せぐぅ先生それはですね。俺はハイスペック人見知りだからですよ」

「人見知りはそんな事言わない」

「ふふっ」

「良かったじゃん三神。ウケたよ」

「そうですね。これで俺もしゃべりのスペシャリストっすね」

「出直して来なさい」

「あははっ!」


望月さんが大爆笑している。

そんなに笑って体調の方は大丈夫なのか。


「それで三神。もうお前は帰っても良いけど、どうする?」

「そうなんですね。せぐぅ先生の方は?」

「私は望月さんのお母様をここで待つ」

「なるほど」

「それでどうする?」

「じゃあ俺が居ても特に出来ることは無いですし・・・」


そう言って俺は荷物を持ち、帰ろうとする。


「帰っちゃうの・・・?」


そう言われると非常に帰りずらい・・・。


「とは言っても俺なんかが居てもなぁ」

「良いじゃない。望月さんとお話する機会だよ」

「まあ確かに」

「私はもっと三神君と話してみたい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る