第二十五話 : 幽霊とデート③
状況が読み込めていない幽霊を引っ張るようにして玄関を出た。
彼はデートと言ってもそこまで遠出をするつもりはなかったのだろう。電車をいくつか乗り換えて、どんどん家から離れていってもなぜお台場に行くのか、なぜお台場なのかということを掴めていない雰囲気を彼は醸し出していた。
なぜお台場なのか。そこには明確な理由がある。お台場は東京のカップルの定番デートコースだと聞いたからだ。
それに上京してから一回もお台場には行ったことがなかったから行ってみたかったというのもある。
チームラボというのが綺麗で凄いらしいというのをテレビで見た時から一回行ってみたかった。
かと言って一人で行くのも気が進まず、ずっと行っていなかったのだ。まぁ今日も私以外には幽霊の彼は見えていないということを考えると一人で行っているのとなんら変わりがないがそれでも誰かと思い出を共有することが大事なのだと思う。
東京テレポート駅のロータリーに着くと幽霊は目を細めながら周りを見渡していた。
幽霊だからもしかしたら日中に行動するのが大変なのかもしれない。
しかし新宿に一緒に行った時もたいして大変そうな素振りはなかったのでおそらく大丈夫だと思う。
「何してるんですか?行きますよ?」
私は周りには彼が見えていないことを気にせず話しかける。
「まずいですよ!熊井さん完全に変な人に思われちゃいますって!」
彼はハッとした後に慌てて私に言う。身振り手振りが典型的な慌てている人の動作をしていたので少し面白くなってしまった。
「私は、私にしか見えない幽霊さんが見える変な人ですから、実際問題変な人に思われるということは間違ってないと思いますよ」
私は軽快に答えて続ける。
「さぁ!最初はチームラボ行きますよ!」
彼はやれやれといった表情をしながら私の方へ歩いてくる。
「一度行ってみたかったんです」
私は満面の笑顔で言った。
◇
チームラボの入口を抜けるとそこは色とりどりのお花が映し出されている幻想的な空間だった。
「すごい!めちゃ綺麗ですよ!■■さん!」
私は大はしゃぎしながら彼に話しかける。
最初は多くの人がいる中で彼に話しかけるのが少し恥ずかしかったが今ではもう何も感じなくなっていた。
現実問題私には彼が見えているのだ。
見えている人に話しかけたところで何もおかしなことはない。
周りの目などそこまで気にしても仕方ない。
今日を思いっきり楽しむ!それだけだ!
彼もお花が舞って蝶々飛んでいるこの空間を思いっきり楽しんでいた。
成人男性がこんなにはしゃいでいるのを見たことがなかったのでちょっと滑稽で面白くなってしまう。
「立ち止まってると蝶が寄ってくるのに末松さんには寄って来ないですね。なんででしょう?おかしいですね?嫌われてるんじゃないですか?」
私は彼といるのが楽しくなってきてすごく意地悪な質問を彼に投げる。
「僕のあまりの魅力に蝶も寄ってこれないんですよ」
彼はお得意のやれやれといった表情で返した。
表情だけではなく、手振りもしっかりつけてくれるので私はもっと楽しくなってきてしまったので何回かこの意地悪な質問を繰り返しした。そのたびにやれやれとやってくれるので私はニコニコの笑顔が止まらなかった。
「■■さん、写真撮りましょう!」
鏡が囲まれているランプの森で私は彼に提案する。
彼は一瞬迷った表情をしたがすぐにイエスと返した。
「いきますよ!笑って〜!ハイチーズ!」
私はそう言うとカメラのシャッターを切った。
私はゆっくり写真を確認する。
やはり写真には私一人しか写っていない。もしかしたらという気持ちはあったが彼は写っていなかった。
しかし私は顔を上げ思いっきりの笑顔をしながら彼にスマートフォンを見せて言う。
「二人ともいい笑顔ですね!」
「ほんとうだ。二人ともいい感じの笑顔です」
ニコッと笑いながら彼は言った。
現実の写真には一人しか写っていなくても思い出の中の写真には楽しそうな二人が写っていた。
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