第二十三話 : 幽霊とデート①
「■■さん。■■さん、■■さん!」
私はソファで眠りこけている幽霊を起こした。
今日は十五時ぐらいに目が覚め幽霊には二十一時頃に帰ってくる旨を伝え、その後バイトに向かった。そして卒なく仕事をこなし帰ってきてご飯とお風呂を済ませアニメの続きを見ようと思っていたところである。
「■■さんが寝てる間にご飯とお風呂を済ませておきました!」
彼は目をパチクリさせながら起き上がる。
「さて、お楽しみの!続きを見ますよ!!!」
私は元気よく幽霊に声を掛けながらDVDプレイヤーを操作する。
このDVDプレイヤーを操作して彼と一緒にアニメを見るのは最後になることはわかっていた。
明日アニメを見たら彼は昇天してしまってこの楽しい時間は終わり。
永遠に続くことはないことはわかっていた。
しかしいざ明日でこの生活が終わりとなると胸が苦しくなる。
アニメはオープニングが終わり、物語が幕引きに向けてどんどん進んでいく。
夕陽に向かって主人公達が叫ぶシーンは涙が溢れてきてしまった。他にも胸を打つシーンがあり涙が止まらなくなってしまった。
おそらく涙の中には明日が来るのが嫌だという気持ちもあるのだと思う。
それほどに私はこの一週間が幸せだったのだ。
東京に来てから苦しい時期が続いた。
それでも諦めなくてよかったと思える、そんな一週間だった。
アニメはエンディングが流れ終わり最初の画面に戻っていた。
「明日、最終回ですね」
私は小さな声で言った。
「この話も明日になったら終わっちゃうんですね」
『この話』それはアニメの話と私と幽霊である彼が過ごした一週間の話。
「物語が終わるのは寂しくて悲しいですが、また違う物語との出合いもありますよ。だから僕はアニメが大好きなんです」
彼は何も流れていないテレビを見ながら言う。
おそらく彼はわかっているのだ。私がひそかに彼に想いを寄せているという事を。
だから、また違う物語との出会いもあるなんて言葉を言うのだろう。
涙が溢れ出すのが止まらない。
避けようがない別れというのがここまで苦しいものだったなんて知らなかった。
地元を離れる時に心が張り裂けそうになるくらい辛くて苦しかった。
しかしそれでも今生の別れというわけではない。
新幹線を使えば四時間弱で帰ることが出来る距離、会える距離だ。
それに対して彼との別れはもう二度と会えない別れ。
また一緒にアニメを観ることも、一緒にお寿司を食べることも、そして歌を聞いてもらうことも出来ないのだ。
もう少し一緒にいてもらいたいと思うのは贅沢だろうか。私の夢の辿り着く先を一緒に見てもらいたいと思うのは傲慢なのだろうか。
私がまだ逝ってほしくないと言えば優しい彼は昇天しないでそばにいてくれるかもしれない。
「熊井さんと、この物語を見れて、俺は楽しかったです」
私も楽しかった。幸せだった。
彼を引き止めても彼自身は幸せではないと思う。
彼は楽しかったと言ってくれたのだ。
ならばこのまま楽しい思い出のまま逝かせてあげたい。
彼が私の方へ向いて笑みを浮かべる。
私も覚悟を決めて涙を拭い彼の方へ向く。
そして息を大きく吸って口を開けて彼に言った。
「■■さん、明日デートをしましょう」
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