第二十二話 : 幽霊とアニメ⑥

私は十五時ごろに目を覚まし少し遅めのお昼ご飯の準備をする。

おそらく夢の中で見た内容と同じなのだろうと思ったけれどDVDプレイヤーを操作してアニメの続きを見ようとする。


やはり想定していた通りで夢の中と同じ内容だった。そして話は夢と同じで途中で終わってしまった。

夢の中ではこの後、幽霊の提案で堀さんに連絡をして続きをDVDに焼いてもらうのだ。

私はスマホを取り出して堀さんに連絡をする。

夢と全く同じ内容の返信が返ってくる。

あいも変わらず堀さんは返信が早い。

現実でも堀さんにDVDを焼いてもらう約束をした私は夢の中のことを考えていた。


夢の中で私は幽霊に恋をしていた。

そして現実の私も彼に恋をしている。

幽霊に恋をしているというだけで滑稽なのに『夢の中の』幽霊に恋をしているのだからもはや滑稽を超えて愉快にすら思えてくる。

そう思うと自分が異質な状況だというのに楽しくなってきてしまう。

顔も霞んでしまってわからない。

名前も口に出して復唱することもできない。

そんな何もわからない人に私は恋をしている。

でもなんとなく清々しい気持ちはあるのだ。

この清々しさがどこから来ているのかはわからないが清々しい。


夢の中で私はいろいろ考えていた。彼が好きな理由を。それがそのまま現実世界でも彼を好きになっている理由だから清々しいのかもしれない。


現実の世界には彼はいない。

彼に歌を聴いてもらったこともなければ彼と話したこともない。

しかし現実の私も、夢の中の私と同じようにもう少し頑張ってみようかなと思うようにもなってきた。

夢から覚めた時に現実とのギャップはいまだにある。しかし起こる事がほとんど同じということもわかってきて夢もほとんど現実と変わらないというような感じに思えてきた。

言っている事だけ考えれば夢と現実の境がなくなってきているという少しヤバそうな感じなのだがそうではなく、夢も現実の一部として捉えるようになったという方が正しいと思う。

要するに夢は夢だと理解しているが夢の中で起こったことが現実でも起こるので夢も現実と認識してもいいのではないだろうかという事なのである。

ここまで考えて上手く言葉に表せないということがわかったので考えるのを辞める。

とりあえず私は正常だという結論だけを自分の中で確定させた。


バイトまでの時間を潰し私がバイト先に着いた時には堀さんは夢の中の通りですでに出勤して来ており事務所にいた。

そして私は堀さんに声をかけながら事務所の中に入る。



「おはようございます」



「熊井さん!おはようございます!昨日借りてったやつ全部見たんですか?!どうでした?面白かったですか?感動しますよね!熊井さんが言いたいことわかります!どのシーンがよかったですか?俺は……」



彼の怒涛の早口トークタイムに入る。

夢の中と同じだが彼の大方言いたいことが終わった後に私に向けて彼が発した言葉は夢の中とは違った。



「あれ?熊井さんなんか楽しそうですね。何かいい事でもありました?」



「そうですか?何かいい事……」



私は無意識に楽しそうな表情をしていたのかと思い顔に手を当てると口角が上がっていることに気がついた。

そうか今、私は楽しいのか。

夢の中と同じで楽しいのだ。

夢だけど夢じゃないのだ。

そして私は顔を上げて堀さんに向かって言う。



「好きな人が出来ました!」

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