第二十一話 : 幽霊とアニメ⑤
「堀さんがこんなにDVDくれました!お風呂出たら見ていきますよ!」
私は帰ってきてすぐに幽霊に自慢するようにバッグからDVDを取り出して机の上に置いた。
彼がおおと感嘆の言葉と共にDVDを見ているのを横目に洗面所に向かいお風呂へ入った。
入浴後の諸々を済ませ彼に向かって言う。
「おまたせしました!続きです!」
私はDVDプレイヤーを操作して早速再生ボタンを押して彼が座っているソファの横に座る。
彼と並んで座ってアニメを見るこの時間が心地良いし落ち着く。
私はあまり男性との交際経験が無いので詳しいことはわからないが一緒に暮らしたり結婚したりしている人はこんな感じの心地よさや落ち着きを感じているのかもしれない。
しかし彼だから、私は心地よさや安心感のようなものを感じているのかもしれない。
最初はただトラックに轢かれる所を助けられただけの関係だった。
けれど彼の言葉で私は歌うこと、やりたかったこといろいろなことを思い出した。
彼と出会わなければ私はおそらく荷物をまとめて石巻に帰っていただろう。
簡単に言ってしまえば彼がしてくれたのは歌を聴いて感想を言ってくれたというだけだ。
ただ、彼は私の想いを全て受け止めてくれた。涙を流してくれた。
有名になりたいとか上手く歌が歌えるようになりたいとかそんなことは一番大事な事ではないという気持ちを思い出せた。
ほんとうの自分を思い出せた。
たぶん私は……彼のことを……。
オープニングが終わり物語が始まる。
私はそれを静かに見ていた。
最終回まで残り二話というところで私の眠さの限界点が訪れた。
「末松さん、ごめんなさい、眠さの限界が……」
「明日は今日よりちょっとバイト早めに行って帰ってくる日なので明日帰って来たら見ましょう。いや、明日って言うよりもう今日ですね!」
私はそう彼に言うとベッドに潜り込んだ。
彼と過ごした日々の中で私はどれだけ彼に救われただろう。
笑えなくなっていた私に笑い方を教えてくれた。
毎日不安に包まれていた私を解き放ってくれた。
そして、止めた足をもう一回踏み出せるようにしてくれた。
また足を進めても何も変わらないかもしれない。
しかしここで足を止めてここを去った私とこの先で止めて去る私では雲泥の差がある。
もし音楽を辞めるとしても、向き合わないで逃げて辞めるということはしたくない。
石巻に帰るとしても全力で本気でやったけど駄目だったと笑ってお父さんやお母さん、沙耶香と明里と美香に会いたい。
娘は、親友は負けて逃げて東京から帰ってきたわけじゃないと見せたい。
この悩んで、苦しんで藻掻いた五年間も私の宝物だ。
だから最後まで前へ進もうと思う。
そう思わせてくれた彼は明後日にはいなくなる。
アニメを見終わったらこの楽しい時間も終わり。
笑ったり泣いたり感情の起伏が激しい人。
自分の気持ちを一生懸命伝えてくれる人。
彼のことを考えると自然と笑みが溢れてしまう。
気がつけば頭の中で彼のことばっかり考えてしまう。
私はきっと彼のことが『好き』なのだと実感する。
幽霊に恋をするなんて滑稽だと思う。しかもその幽霊は二日後にいなくなってしまうのに。
しかしこの気持ちは永劫彼には伝えられない。
彼は私が気持ちを伝えたことでまた現世に未練が残ってしまうかもしれない。
それは私も望んではいない。
好きな人に幸せに逝ってほしい。
もちろん彼は私が気持ちを伝えても未練が残らないかもしれない。
そうだとしてもこの気持ちは秘密。
私だけが知ってる恋の話。
でも最後にデートに誘っちゃおうかな。
それくらいなら許されるよね。
そんなことを考えながら幸せな気持ちで私は眠りについた。
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