第十九話 : 幽霊とアニメ③
ジリリリリリリリリリリ!
目覚まし時計が鳴り響く。
先ほど寝たばっかりな気がするが時計を見ると前日の朝九時を指していた。
また夢だった。彼と夜通しアニメを観たのは夢で私はこれから『また』姉の夫出産祝いを買いに行かないといけないのかと気持ちが落ちる。
気持ちが落ちたのはまた同じことをするからというだけではなくやはりあの幽霊がいないということも起因していると思う。
私は手早く着替えを終えて家を出る準備をする。
幽霊を起こす必要が無い事を少し淋しいなと思いながら玄関を出た。
◇
「あの、すいません。出産祝い用のものが欲しいのですが」
「出産祝い用のギフトですね。こういうものがございますが。何かご希望とかありますか?」
夢で見たのと同じ店員さんが対応をしてくれる。
もうすでに夢の中でこのやり取りをしていた私は店員さんにいろいろな商品を代る代る提案されても頭が混乱することはない。
私は迷わずお洋服セットを選ぶ。
この洋服が私の着ている服より高い事とか一万二千円する事とかはわかっている。
それでも彼がこれがいいと思うと言ってくれたからこれにしようと決めた。
夢で見た通りに、姉から聞いていた住所を郵送先にして送る手続きとお会計を済ませて私はデパートを後にした。
「お昼ごはん食べて帰るか」
その言葉の先には誰もいない。
意地悪をする相手もいなかった。
お昼ご飯を食べて帰りの電車に乗る。
夢の中では嬉しそうに私に着いてくる幽霊がいたが今回は一人。最寄り駅までの時間が長く感じた。
帰ってきて手短にバイトに行く準備をする。
今回はテレビの電源は切っていくことにした。
「おはようございます」
バイトの事務所に入るとすでに出勤してしていた堀さんがいた。
「おはようございます!あれ?なんか熊井さん元気ないですね?何か悲しい事でもありました?」
堀さんが言ったセリフが夢の中と違う。
基本的には夢の中で私が体験した事がそのまま現実世界でも起こる。
しかし今堀さんに言われたのは夢の中では違うセリフだった。
「少し悲しい事がありました」
私がそう返すと彼はそうなんですねと反応したが特に何があったかとかは聞いてこない。
これは夢の中と同じだった。
お客さんがいなくなりお店を閉める作業中に私は夢の中と同じように堀さんに尋ねた。
「堀さんがこの前言っていたアニメってどれだったんでしたっけ?」
私の言葉を聞いた堀さんが目を輝かせながら私の方に向かってくる。
「熊井さん、あのアニメに興味が出たんですか?!話した時はあまり興味がなさそうだったのに!」
そう言って彼は私の手を引っ張りアニメコーナーに連れて行く。
「これが第一シーズンですね!今は第二シーズン中で発売されたやつは新作コーナーに置いてますよ!」
「とりあえず新作のやつも含めて全部借りていくことにします」
夢の中で観たので既に内容はわかっているのだが目をキラキラ輝かせている堀さんを前にしてやっぱり辞めたとは言えなかった。
「いきなり全部ですか?!熊井さん本気ですね!何かあれば俺に言ってください!」
その後私たちはお店を閉めて堀さんとは別れの挨拶をした。
家に帰ってきてお風呂に入りながら私は考える。
まず、堀さんが最初に言ったセリフは間違いなく夢の中とは違った。
しかしそれ以外は来店したお客さんも堀さんの他の言葉も夢と全く一緒。
何かをトリガーにして夢と現実が変わる。
ただ何がトリガーになっているのかがわからない。
お風呂から上がり髪を乾かして缶ビールを開ける。
そしてDVDプレイヤーにディスクを入れた。
とりあえず借りてきたやつを見てみよう。もしかしたら内容は夢の中と違うかもしれない。
「やばい。そろそろ寝ないと」
私は夢の中でも見たはずのアニメをしっかり夢と同じように第一シーズンを全部見てしまった。
結論から言えば夢の中で見た内容と全く同じだった。でも何回見ても面白い。あの幽霊が幽霊になってまで見たかったという事に納得がいく。
幽霊の事を考えたら少し心が軽くなったので私はベッドに潜り込んだ。
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