第十八話 : 幽霊とアニメ②
新宿から帰ってきて手短にバイトへ行く準備を済ませる。そしてソファに座っている彼に向かって言った。
「私はそろそろバイトに行ってきます。末松さん暇だと思うのでテレビ付けて行きますね」
私はそう言ってテレビのリモコンに手を伸ばして適当にチャンネルをつけて家を出た。
バイト先は駅前の建物なので歩いて少しの距離にある。
「おはようございます」
バイトの事務所に入るとすでに出勤してしていた堀さんがいた。
「おはようございます!あれ?なんか熊井さん楽しそうですね!何かいい事でもありました?」
明るい声で彼は私に聞いてくる。堀さんは私より二つほど年下の好青年だ。この街が地元で大学に通いながら親の持っているマンションに一人暮らしをしている。
「少しいい事がありました」
そうなんですねと彼は反応したが特に何があったかとかは聞いてこない。そこが彼のいいところだ。人が話したそうにしてれば聞いてくるし言いたくなさそうことがあれば踏み込んでこない。
かく言う私も幽霊に取り憑かれましてね、なんて話ができるはずも無く彼が聞いてこないのは助かるというわけである。
お客さんがいなくなりお店を閉める作業中に私は堀さんに尋ねた。
「堀さんがこの前言っていたアニメってどれだったんでしたっけ?」
私の言葉を聞いた堀さんが目を輝かせながら私の方に向かってくる。
「熊井さん、あのアニメに興味が出たんですか?!話した時はあまり興味がなさそうだったのに!」
そう言って彼は私の手を引っ張りアニメコーナーに連れて行く。
「これが第一シーズンですね!今は第二シーズン中で発売されたやつは新作コーナーに置いてますよ!」
全部で七巻もある。思っていたより多い。私はあまりアニメを観ないので第一シーズンが全部で何話あるのかすらわかっていない。
しかし■■さんの見ている話数までどうせなら進めて一緒に最終話を観たい。
彼も自分が幽霊になってまで観たかったアニメを一緒に観ている隣の人が興味無く冷めた目で観てたら悲しいだろう。
彼が清々しい気持ちで昇天出来るようにしてあげたい。そんな気持ちが私には宿っていたのである。
それはもしかしたら彼に救われたお返しなのかもしれない。それとも他の気持ちなのかもしれない。
ただ今私にわかるのは一緒に最後のアニメを観たいということだけだった。
「とりあえず新作のやつも含めて全部借りていくことにします」
「いきなり全部ですか?!熊井さん本気ですね!何かあれば俺に言ってください!」
その後私たちはしっかり締めの作業を終わらせ各自帰路についた。
「ただいまです」
私が帰ってくるまで肘をついて寝っ転がりながらテレビを見ていたであろう幽霊は私が帰ってきた瞬間に姿勢を正し嬉しそうにこちらを向いた。
「■■さんが言ってたアニメのやつ、借りられるだけ全部借りてきました!」
そう言うと彼はびっくりした表情をしてすぐに笑顔になる。
「最終回まであんまりないですからね、どんどん見ていきましょう」
彼はそう言いながら親指を立ててグッドの手の形をした。
足早にお風呂に入り髪を乾かして缶ビールを開ける。そして久しぶりに使うDVDプレイヤーにディスクを挿入する。彼が幽霊になるほどのアニメというのもあって少し楽しみな気持ちになっていた。
「■■さん、一回寝ましょう、今日もバイトなので一応寝とかないと」
私たちは休みも入れずにひたすらアニメの視聴を続け第一シーズンを全部見終わってしまったのである。
自分でもこんなに集中力があるとは思ってもみなかった。
「ワクワクしましたし元気が出ました、そしてたしかに■■さんが言うようにちょっと泣いてしまいました!
とりあえずおやすみなさい」
彼が言ったように確かに笑いあり、涙ありのストーリーだった。
そしてなによりも自分たちが目指すものに全力で取り組む彼女たちを見て共感してしまった。
続きが見たい気持ちはあるが朝日が昇ってきてしまって私の眠気が限界を迎えてしまったのである。
彼は幽霊だから寝なくても大丈夫だが私は人間なので限界がある。
彼にそう告げると私はすぐさまベッドに潜り込んだ。
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