第十七話 : 幽霊とアニメ①

「■■さん、■■さん!起きてください!出かけますよ!」



私は着替えと準備を済ませソファで寝ている幽霊を起こす。



「どこに行くんですか?」



体を起こしながら目をこすって幽霊が聞いてくる。



「姉が出産したのでそのお祝いを買いに行こうかと。ほんとは一昨日買いに行く予定だったんですが、あの事があって行けなくなってしまったので夜のバイトまでに買いに行くことにしました」



あの事とはトラックに轢かれそうになった例の件だ。

あの件がなければ私はおそらくこの幽霊と知り合うこともなかったしもう一度音楽に向き合うこともなかっただろう。

そういう意味ではあの事はよかったと言えるのかもしれない。



「どこまで行くんですか?」



「新宿まで行こうかと」



彼は私の言葉を聞いてソファから立ち上がりすごく嬉しそうな顔をしながら首を縦に振った。





新宿駅に着きそうなアナウンスが電車の車内に流れてくる。

一緒に乗っている幽霊があまりに嬉しそうなので顔がほころんでしまう。

さすがに電車の車内で誰もいない空間に話しかけるのは恥ずかしいので目線でもう着きそうというのを電車の液晶モニターと彼の目を交互に見ることで伝える。

彼の声は私以外には聞こえないのでそうですねと返してくる。

私の声は周りに聞こえるのに彼のは聞こえないのは少しずるい。

駅に着き改札を出て歩いている時も何故か彼は凄く嬉しそうだった。歩き方からワクワクしているのが伝わる。何がそんなに嬉しいのかわからないが彼が嬉しいならいいとしよう。


私達は駅からそのまま地下に降り地下商店街を抜けてデパートの地下通路直結入口から中に入っていった。

エレベーターに乗り六階へ向かう。

一昨日、あの件の前に事前にある程度情報は調べていたので迷わずお目当てのお店に辿り着くことが出来た。



「あの、すいません。出産祝い用のものが欲しいのですが」



「出産祝い用のギフトですね。こういうものがございますが。何かご希望とかありますか?」



慣れたトークと共に店員さんが商品冊子をめくる。

その後もいろいろな商品を提案されては下げられを繰り返され私はどれがいいのか頭が混乱してわからなくなってきてしまった。

店員さんが商品を取りに後ろに下がった瞬間にすかさず彼に問いかける。



「■■さん、どれがいいと思いますか?私的にはお洋服セットかタオルセットかと思うんですが」



「個人的にはお洋服セットがいいかなって思いますね。赤ちゃん会いに行った時に来てたら可愛いでしょうし」



たしかに会いに行ったとき着てくれていたら嬉しいしおそらく可愛い。

お洋服はいくつあっても困らないだろうしナイスアイデアだ。

先ほど提案されてからショーケースの上に置きっぱなしになっていたお洋服の値札を確認する。



「一万ッ、二千円ッ」



思わず声が出てしまった。

私が着てる服よりはるかに高い。そんなものなのかもしれないがとても痛い出費になるなと思った。


姉から聞いていた住所を郵送先にして送る手続きとお会計を済ませて私達はデパートを後にした。



「思ったより高かったですね」



デパートを出てから人通りの少ない少し歩いたところで彼に話しかける。



「まぁギフトですしそんなものの様な気がしますよ」



「まぁせっかくですしお昼ごはん食べて帰りますか!」



もう払ってしまったお金は戻らないので気分を切り替えていくとする。



「まぁ末松さんは食べれないんですけどね」



しっかり彼への意地悪も忘れずにした。

意地悪をしたはずなのに彼は少し嬉しそうに私に笑みを返した。

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