第十話 : 幽霊の秘密⑥
私は子供のように泣きじゃくっている彼をいったん家の中へ入れたがそれでも泣き止まなかったので子供をあやすように頭をヨシヨシするようにした。
もちろん彼は幽霊なので触るような動作をしただけで別に触ったわけではない。
少し経つと泣き止み、落ち着いてきたので声を掛ける。
「落ち着きました?」
「ごめんなしゃい。取り乱してしまって」
呂律が回っていないのでまだ本調子ではないかもしれないがとりあえず何を言っているかは聞き取れそうだ。
「落ち着いて良かったです。玄関開けたら泣きじゃくっている■■さんいてびっくりしましたよ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。家で電気も付けられないし声も誰にも聞こえないし、なんか泣いてしまって」
そうか彼は幽霊だから全てをすり抜けてしまう。
ということは帰したところで何も出来ず途方に暮れてしまうだろう。
私だったとしても彼のように泣きじゃくってしまうかもしれない。
いや、彼ほどは泣きじゃくらない。彼より大人だし少しほろりとしてしまうぐらいだろう。
「私こそ■■さん、モノに触れられないから帰っても何もできないのに帰してしまって。あれ?でもチャイム……」
彼は間違いなく私の家のチャイムを鳴らした。
彼は基本的に何かに触ることは出来ない。
ということは自分の意思で触れる触れないを選ぶことが出来るということなのだろうか?
彼も何故かチャイムを押せたということに気づいたのか私の方に手を伸ばしてくる。
それに合わせるかのように私も彼に手を伸ばす。
未知との遭遇ならぬ幽霊との遭遇となるかもしれない。
彼の緊張が伝わってくる。
彼の手が私の手をすり抜ける。
おそらく彼自身が一番ショックを受けていただろう。希望を目の前にチラつかせられていたのにそのまま突き落とされた感じになってしまったからだ。
表情にもショックを受けてるのが表れている。
「■■さん、もしよかったら来週の日曜日までうちにいますか?」
あまりにショックを受けている彼を見て不憫に思ったのもあるだろうがそうだとしてもそこまで嫌ではない。日曜日が少し楽しみにしていた自分もいる。なので別にいいだろう。
彼は私の言葉を聞くとまさにパァとした笑顔という擬態語が一番適している顔をする。
そんな彼を見て私も不思議と笑顔が出てしまう。
「■■さんも自分の家のようにくつろいでくださいね」
私は寝る準備に取り掛かった。
寝る前の諸々を終わらせ、彼に電気を消す旨を伝えてベッドに横たわる
いろいろあったがやっとベッドに辿り着けた。
彼はソファに横たわり始めて少し経つと、なんと寝始めたのだ。
夜ちゃんと眠る幽霊なんて聞いたことがないと思いながら布団の中で少し笑ってしまう。
変な幽霊。おかしな幽霊。
怖い幽霊ではなくて彼のような幽霊でよかった。
私はこの日久しぶりに何からも解放されて思いっきり眠った。
ふと目を覚ますと時間は十五時過ぎだった。
先程まで見ていた夢を思い出す。幸せな気持ちだけがこの胸に残っている。
ソファには幽霊なのに眠っているという滑稽な存在はいなかった。
夢なのに現実と間違えそうになるくらいにリアル。
「カッ、ハッ、さん」
夢の中では言えていた彼の名前を呼ぼうとするが上手く発声出来ない。
夢ではあんなにはっきりわかってもいたし声に出すことも出来たのにわからない、出せない。
そのことが私をより憂鬱にさせた。
昼ご飯もまだだったことに気付いた私は買いに行こうと玄関に手をかける。
「行って……」
ここには声をかける相手もいないということに気付いて言葉を止めた。
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