第九話 : 幽霊の秘密⑤

律儀に座っている幽霊に声を掛ける。



「帰りました。ただいまです」



「ごめんなさい。ご飯食べちゃいますね。」



私は先程買ってきたお弁当を電子レンジで温め食べ始めた。

彼はそんな私をずっと見つめている。

何か言うことがあっただろうか?

ああ。そうか。なるほど。



「あ、ごめんなさい。■■さんもお疲れですよね。私はもう大丈夫です。今日はほんとにありがとうございました。救ってくれた人が■■さんのような優しい方で本当によかったです。日曜日お待ちしてますね」



私がそう言うと彼は立ち上がり玄関の方へと向かっていった。心なしか元気がなさそうに見える。

たぶん彼も疲れていたのだろう。彼としてもトラックから人を助け、その後付き添いで病院へ行く。そこから私が大丈夫か見守っていたのだ。ヘトヘトになっていたとしても不思議じゃない。

私も相当疲れているということのは感じていたので食べかけの唐揚げ弁当を流し込みお風呂に入る準備をする。

今日ぐらいはゆっくりお湯を張って浸かろう。


お湯に浸かりながら今日のことを再度考える。

このまま眠りたい。何も考えずゆっくり眠れそうだ。

最近はこの先の未来について考えてばっかりで押しつぶされそうだったが今日はいろいろありすぎてそのことを考える時間が全くなかった。

忙しいと無駄な事を考えなくていいのは助かる。

それにあの幽霊はちょっと面白い人だったな。また日曜日に彼に会うのが少し楽しみになってきている自分がいることに気づいた。

最近何かを楽しみにするなんていうことがほとんどなかった。毎日明日なんて来なければと思っていたのに少し日曜日が、明日が楽しみになってきていた。


お風呂から上がって髪の毛を乾かす。何気ない毎日の作業なのにいつもとは違う気がする。


ピンポーン


玄関のチャイムが鳴る。こんな時間に誰だろうか。



「はーい。少々お待ちくださいー」



私はそう言うと玄関の方へ向かう。

やはりいろいろあって気は緩んでいたんだと思う。

ドアスコープを確認せずにドアを開けてしまった。



ガシャ



ドアを開ける。

そこに立っていたのは顔を涙でぐしゃぐしゃにしたような彼だった。

成人した男性とは思えないぐらいの泣きじゃっぷりで玄関の前に立っていた彼を見て、これは比喩ではなくただの悪霊ではないかと思ってしまったぐらいである。



「■、■■さん?!」



「クズッ、くま、クズッ、いしゃん、クズッ、でん、クズッ、き、クズッ、ちゅけ、クズッ、られな、クズッ、くて、クズッ、くらく、クズッ、て、クズッ、クズッ」



もう半分以上何を言ってるかわからないぐらい泣きながら喋っている彼を見てびっくりとコミカルな感じで面白くなってきてしまった。

悪霊などと先ほどは言ったがそれは撤回しないといけない。悪霊より精霊や妖精に近い何かかなと思ってしまった。

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