第八話 : 幽霊の秘密④

「それ。堀さんが言ってたやつかもしれません。■■さんも言うなら見てみようかな。それは男の子じゃなくても面白いものなんですか?」



「もちろんです!このアニメの音ゲーもあるんですが、むしろ音ゲーのほうが先だったんですが、電車でこれやってる女の子見たことあります!」



私はスマホを取り出して言われてみたタイトルを調べてみた。



「今やってるのは二つ目なんですか?一つめ見ないと話は繋がらない感じですよね。私レンタルビデオ店でアルバイトしているので次行った時一つ目借りてみますね」



「是非そうしてみてください。絶対面白いことをこの■■が保障いたします!」



彼は自分でその作品を作ったかのように堂々と誇らしげに言った。

本当にこの作品が好きなのだろう。

話もスムーズに出てくるしその作品が好きというのが会話の端々から伝わってくる。

そんな力説されたら私もどんな話なのか気になって来てしまう。



「■■さん、コップ触れなかったですけれどテレビ付けること出来るんですか?うちで見ますか?」



おそらく疲れで思考が回っていなかったのだとは思う。

堀さんと一緒に見れればとかいろいろ考えていたはずなのに私の家で見る提案をしてしまった。

やはり彼に同情とも共感とも言えない感情が自分の中にあったのだと思う。

私が一緒に見る必要もないがこれも縁だと思って彼に付き合うことにする。

本当は一緒に見て共感したり感動したり出来る人の方が好ましいかもしれないがそれは置いておこう。



「ヒグッ、ほ、ほんとうですか、ヒグッ。迷惑じゃ、ヒッグ、なけれ、ヒグッ、ば、お、おねがいっ、ヒグッ、したい、ヒグッ、です。ヒッグ」



彼は涙を流しながら絞り出した声で言った。

大号泣をしてる彼を見て少し可笑しくなってしまう。

さっきまで早口で好きなアニメの話を楽しそうに話していたのに急に泣いてしまっている。まるで感情のジェットコースターみたいな人だなと思う。

憂鬱な毎日を過ごしていた私にとって少し救われた気がする。

本心から笑えたのは久しぶりな気がする。

少し、ほんのちょっとだけ心が暖かくなるのを感じた。





「■■さんはご飯食べられますか」



自分が昼ご飯も夜ご飯もまだだったことに今さらながら気づいた。

それほどに今日という一日が怒涛だったのだ。



「たぶん、箸が持てないので食べれないかと」



「ではちょっとご飯買ってきますね。玄関は閉めていきますね」



「あ、はい。わかりました。待ってます」



私は立ち上がり玄関を出る。

近所のコンビニに向かいながら整理をし始めた。一人になり状況を思い出すとその異常さがわかるようになってきた。

トラックに轢かれそうになった。

そして彼に助けられた。

病院に行き問題なく帰ってきた。

彼は幽霊だった。

日曜日に彼とアニメを見る約束をする。

なにこれ。なんなんだこれは。

まるで小説みたいなような感じではないか。

コンビニに着きお弁当を眺めながらそんなことを考える。

とりあえずエネルギー補給をしないと。唐揚げ弁当にしよう。頭に糖分が足りなさ過ぎる。元々キャパシティが少ない私の頭はもう限界だ。


会計を済ませ帰路につく。

帰りながら今日起こったことは全て夢ではないだろうかという気持ちになった。

私はトラックに轢かれそうになっていないし家に帰っても幽霊はいない。

そうに違いない。こんな三文小説みたいなことは起こるはずがない。きっとそうだ。


私が鍵を開け部屋に戻るとそこには律儀に星座をして座っている幽霊の姿があった。

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