第七話 : 幽霊の秘密③

「そうですね。せっかくこういう状態になったんですから悔いの無いようにして昇天してやりますよ」



彼は元気な声で答えた。

よかった。少しは落ちた彼の気持ちを上げることが出来たかもしれないと胸を撫で下ろす。

もうこの時点で私は彼に対する恐怖はなかった。

むしろ親近感すら抱いていたのだ。

彼に興味が湧いてきた私は聞いてしまう。



「■■さんはなにか思い残したことがあったから幽霊さんになったんですか」



また再び彼は考え込んでしまう。

彼はおそらくとても思慮深い人なのだと思う。

自分が発する言葉でどのような事が起こるか考えながら話しているような気がする。

しかしこの質問には正直に答えてほしいと思ってしまう。

もし私が今死んでしまったら歌手になれなかったという後悔から彼のように幽霊になってしまうのだろうか。それが知りたかった。

幽霊になった人を目の前にして自分自身が後悔しながら永遠に存在しているのが嫌だと思ってしまった私はなんて薄情な人間なのだろう。そんな自分が醜くて自己嫌悪になる。



「いやぁ、よく分からないんですよね。深層心理?みたいなのはちょっと僕にもわからないですがなんかすごい思い残したようなことは見つからないですね」



彼は心を隠してしまった。

この言い方はおそらく何かやり残した事が、後悔があるのではないだろうか。

ただそれを確認するすべはない。

彼が心の内を隠してしまった以上私に出来ることは何も無い。



「はぁ。そういうものなんですかね」



私も心の内を隠しきれず言葉が出てしまった。


沈黙が流れる。なんと声をかけていいものかわからない。少し不機嫌な感じになったと捉えられたかもしれない。



「強いて言えば僕アニメ見るのが趣味なんですが今最終回ラッシュで見たいのもあったかなぁとか思ったりしてたんですよねぇ」



彼は沈黙が耐えきれなくなったのかいきなり言い始めた。

やっぱりそうだった。彼は後悔しながらこの世を去ったのだ。

強いて言えば、なんて使っているが言葉の抑揚を考えるとそれが後悔の正体なのだと思う。

それに彼が少し心を開いてくれたのが嬉しかった。

自分が死ぬ時に後悔した事なんて言いたくないだろう。後悔するくらいなら死なずに足掻けばよかったのにと多くの人は思うだろう。それはやはり恥ずかしい。しかし彼はそれを踏まえても話してくれた。それが嬉しかった。



「じゃあその思いが■■さんを幽霊さんにしたんですね!」



私は少し嬉しそうな感じで言った。

私は昔からすぐ感情が言葉に乗ってしまう。

歌手としてはいいかもしれないが人としては未熟なような気がする。

そんなことよりこの人の後悔を無くして天国に届けてあげることは出来ないだろうか。

アニメがみたいと言っていた。

そういえばバイト先の堀君もアニメを見るのが趣味だと言ってたような気がする。なんとかは人生みたいなことを飲み会で言ってた。



「先程お話したバイトの後輩、堀さんというんですが彼もアニメ好きですよ!」



堀さんがいればこの人は後悔していた事を成し遂げて昇天出来るかもしれない。



「■■さんの好きなアニメは何なんですか。」


「鬼と戦う剣士のやつです!」



最近話題になっているやつだと思う。

そのアニメなら私も少し知っている。

私が堀さんに連絡してみるか迷ってると彼はいきなり大きな声で



「鬼と戦う剣士のアニメも好きですがやっぱりあの女の子たちがアイドル目指して頑張るアニメの最終回を見るために僕は!もう一度!この世界に!戻ってきたんです!」



彼はとても誇らしそうに堂々と私を真っ直ぐ見ながら言った。

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