第五話 : 幽霊の秘密①

「アールグレイ好きですか?よろしかったらミルク入れてくださいね」



うーん。何故こんな流れになったのだろう。

でしゅ。と言って恥ずかしそうにしていた彼を見ていられなくなりうちでお茶でも飲んでいきますか?と聞いたのは私だ。しかし初対面かつちょっと怪しい人を家に招き入れるのはあまりにも愚かではないだろうか。

生命の危機を感じて変な気を起こしてしまったのだろうか。

ただ家に入ってから特に変な行動をするとかを彼がしなかったというのは運が良かったのかもしれない。

ただちょっとだけ彼は嬉しそうな感じだ。

あんまり人に優しくされたことがなかったのかもしれない。

やはり彼は犯罪者で刑務所から逃走中だから人と関わらないようにしていたのかもしれない。

そんな可能性のある人間を家に入れたことはやはり失敗だった。

とりあえずぞんざいに扱って逆上させてしまっては大変だ。可能な限り丁寧に対応して帰ってもらうしかない。



「紅茶あまり好きではないですか?緑茶もありますが」



まずい。全く手を付けない彼を見て思考を回す。

もしかしたら彼は紅茶を飲まない人だったのかもしれない。

紅茶を出したから殺されたなんて笑い話にもならない。しかしあいにく今、ジュース類は切らしている。お茶で納得はしてもらえないだろうか。淡い期待を込めて彼に提案する。



「あの……僕、ほんとは死んでるんですよ。いわゆる幽霊ってやつですかね!だからコップ触れないんでしゅ!」



頭に疑問符が大量に出る。

死んでいる?どういうことだろう?

幽霊?お化けということだろうか?

これは何かの試しなのか?

こんなにくっきり見えているのに幽霊なんてありえない。

もしこれで回答を間違えたらその場でズバッと!ということになるのだろうか。

私は病院帰りの疲れた頭で必死に考える。

愛想の良い回答を考えないと。



「まさかぁ!そんなはずないじゃないですか。■■さんは面白い方ですね」



面白い方ですね。というのは言葉選びに失敗したような気がする。人によっては馬鹿にされたと捉えれても仕方ない。

一瞬の判断ミスが命取りになるとしっかり頭に刻め、私!

彼は私の言葉に対して手を持ち上げる。

あぁ終わった。トラックに轢かれそうなったけれど助かった。しかしその後ここで死ぬんだ。

まぁ仕方ない。自分の判断ミスでこの結果になるならトラックに轢かれるより納得がいく。というよりも、もうあまり生に執着もない。ただ慰み者にされるのだけは嫌だな。

私がそうなことを考えながら覚悟を決めると彼はコップを持とうとした。

彼の手はコップをすり抜けた。

彼は少し広角を上げニッした表情をしたような気がする。

私は相当素っ頓狂な顔をしていたのだろう。

本当に幽霊だったのは想定していなかった。

しかしこんなとこで思考を止めてはだめだ。

幽霊ならば彼は何故私を助けた?自分が呪い殺すまで死なせられないとかだろうか?

私を呪っているなら何が原因だろうか?

昔恨まれることをしただろうか?

考えても考えてもわからない。

とりあえず丁寧に対応しなければ。



「本当に幽霊さんなんですか?」



「そうなんです。幽霊さんなんです」



彼はドヤ顔のような表情でそう言った。

ドヤ顔の幽霊というのもとても不思議だが彼の機嫌が良さそうなので良しとする。

しかしこの回答からは私が知りたかったことは何もわからない。

私はさらに思考を回した。

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