第四話 : 私のこと④
私たちは限りなく青い空に心震わせて私たちは卒業した。
卒業式が終わった後、私たちは校舎の中庭でジュースを飲みながら話した。
ここは毎日みんなでお昼ご飯を食べていた思い出の場所だ。
もうここでお弁当を食べることもないかと思うと感傷的な気分になる。
明日からはここに来ることはない。
朝登校する時の通学路。そこで会うクラスメートとの雑談。
遅刻しそうになり駆け上がる階段。
授業の合間のトイレ。
爆笑しながら食べるお弁当。
帰りの通学路を照らす夕焼け。
そのすべてが愛おしい。
かけがえのない日々。私たちの青春。
「音楽室開いてるかな?ちょっと一曲やってかない?」
私はふと思い立って言ってみた。
「お、いいね。なんか梨子がそういうかと思ってドラムスティック持ってきてたんだよね」
「実は私もベース持ってきたの」
二人ともまったく準備がいいことだ。
そんな私もギターを持ってきてはいたのだから似た者同士なんだと思う。
「キーボは特に持ってくるものない」
美香がしょぼんとした声で言う。
「家からキーボ背負ってくればよかったじゃん!」
明里が間髪入れずにツッコむ。
「学校のやつなら何回も使ってるからわざわざ持ってこないよ!」
それを見て私は笑ってしまう。いつものやり取りだ。今日卒業したなんて思えない程の普段の私たちだ。
笑ってる私を見て三人もつられて笑う。そしてまた四人で泣いた。
全員で思いっきり泣き終わってから私たちは音楽室へ向かった。
音楽室は閉まっていた。
それはそうだと思う。戸締りはしっかりしないとダメだもんね。
「どうする?」
私が聞くと
「もちろん鍵借りに行くでしょ!」
明里が元気よく答える。
二人もうんうんと頷いている。
「そうだよね!」
私がそう言うと私たちは職員室に足を向けた。
職員室には軽音楽部の顧問である矢部先生がいらっしゃったので私たちは音楽室を使いたい旨を説明して音楽室の鍵を借りた。
「青春だね。楽しんでおいで」
そう言いながら矢部先生は私たちを送り出してくれた。
音楽室について各自機器のセッティングを始めた。
「とりあえずセッションしよ!」
明里はそう言うとエイトビートでドラムを叩き始める。
そこにベースの沙耶香が乗っかる。
私と美香も加わり音が重なる。
中学生の頃初めてスタジオに入った時はアンプへの繋ぎ方もわからずスタジオの人に教えてもらいながらやったのが懐かしい。
そんな私たちも今では曲の前にセッション出来るぐらいになった。
みんなでいっぱい練習もした、喧嘩したりもした。そんな思い出が蘇ってくる。
「よし!じゃあどれやるかー!」
セッションが終わり一番に明里が言う。
私たちで奏でる最後の曲。
「梨子が決めなよ!」
「梨子ちゃんが決めて!」
「梨子ちゃん選んで!」
私が始めたこのバンド。終わりも私が決めないと。
「やっぱあれでしょ!」
「あれ、やっぱり曲名センスなさすぎだよなぁ」
「そんなことない!めっちゃいい曲名!私が頑張って考えたんだから!」
「私は梨子ちゃんらしくて好きだよ」
「私も意外と好き」
「じゃあいくよ!『このリズム弾め!』」
私はゆっくり息を吸い込む、そして口を開く。私たちの最後の曲が始まった。
泣いた気持ち忘れないように
ずっとずっと消えない火を灯していく
人一人のそう、そのstanding now!!
get to charge
ってさ
とは?
tonight?!
ってな
待ってなすぐに行くから
傷は嫌々
押すな嫌々
やめる?
そんなことはない
止まらずに
人一人only lonely
(マッテナンテナイ)
人一人only lonely
(マッテナンテナイ)
人一人only lonely
(マッテナンテナイ)
泣いた気持ち忘れないように
ずっとずっと消えない火を灯していく
つらい思いなくさないように
もっともっと大きな声で歌っていく
hit hit もうこのride on time!!
wait to chance 居場所がなくてもさ
ってさ
とは?
tonight?!
ってな
待ってなすぐに空くから
ミスは嫌々
残すな嫌々
止める?
そんなはずはない
恐がらずに
人一人only lonely
(マッテナンテナイ)
人一人only lonely
(マッテナンテナイ)
人一人only lonely
(マッテナンテナイ)
ちゃんとちゃんと見えない前を向いていく
過去の自分信じられるように
やっとやっと全力で勝負していく
暗いところに迷い込んだとしても
思ってるほど一人じゃないよ
一つ一つ埋めたパズルは知らない間に完成していて
先の自分に託すよ お願い
最後に悔いが残らないように
ぐっとぐっと手を握りしめていく
自分自身を好きになれるから
すっとすっと胸が楽になれる
明日をもっと輝けるように
もっとずっとこのリズムよ
想い想う空の彼方へと
次の日私は親と一緒に石巻駅に向かっていた。
母がこんなにも私を心配してるなんて初めて知った。
「ご飯はしっかり食べないと駄目よ。それと布団はかけて寝ること。お世話になったらしっかりお礼を言うこと。他には……」
父は口数が多い方ではなかったがすごく心配して色々言葉をかけてくれた。
こんなにも私は愛されてたんだ。
そう実感する。
お父さん、お母さんありがとう。
駅には三人が私を待っていた。
「主役の登場じゃん」
明里が先陣を切って話しかけてくる。
「東京行ったら梨子の家泊まるからよろしく!」
明里らしい言葉だ。
「帰ってきたら遊ぼうね」
美香は泣きそうになりながら言う。
「いってらっしゃい」
沙耶香は簡潔だったがこの一言には色々な思いが込められてることが幼馴染でまるで双子の姉妹のように歩いてきた私にはわかった。
そして私はここにいる全員に向かって言う。
「いってきます」
仙石線の電車が走り出す。
私は今日この街を出る。
田舎のこの街が嫌いだと思ったこともあった。
しかし18年この街が私を育ててくれた。
この街が大好きだ。
ボックシートの私の向かいには誰も乗っていない。
私は流れ去る景色を見ながら言う。
「いってきます」
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