尾八原ジュージ

××××

 あれ、内藤ないとうさんちのおばあちゃんが一人で歩いてる。

 やぁだ、綾子あやこさんどうしたのかしらね。そりゃ綾子さんだって忙しいでしょうから、四六時中つきっきりってわけにいかないでしょうけど。

 ちょっとちょっと、おばあちゃん。危ないよ。そっち県道なんだから。車がビュンビュン通ってるのよ。

 どこ行くつもりだったの? なぁに? 駄目ねぇ、ちっともなに言ってるかわかんないわ。ねぇ、おうちに帰りましょうよ。いやなの? あたしが連れてってあげるから。え? 困ったねぇ、どうしてもそっちへ行くの。

 ああ、綾子さん! よかったぁ、お嫁さんが来たわよおばあちゃん。大変ねぇ、綾子さん。え? おばあちゃん、お父さんにお弁当届けにいくつもりなの、これ。ちっちゃい籠持ってねぇ。へぇー、よくわかるわねぇ。

 あなたよく看てるわよ、本当。えらいもんねぇ。やだね、一人だけ稼いでないからなんて言うもんじゃないのよ。みんなが外へ出て働けるの、あんたのおかげじゃないの。家事からなにから、こうして大姑の介護までやってさ。

 ほんとねぇ。おばあちゃん、子供みたいになっちゃって。ええ? かわいいボケ方で助かるって? あはは、確かにそれはあるかも。

 おばあちゃん、綾子さんのこと、お母さんだと思ってるんじゃないかしら。だって綾子さんが来た途端にお顔が変わったもの。嬉しそうな顔してるわ。

 そら、おばあちゃん。お手手つないでおうちに帰りなさいよ。気をつけてね。

 あっ――ねぇ、おうちって言えばさ。

 綾子さんたち、今度引っ越すんでしょう?

 いえね、こんなこと言っちゃいけないとは思うんだけど。

 あの家はやめた方がいいわよ。

 あらやだ、本当なんだから。本当に何人も人が亡くなってるのよ。それにおかしなことも多くって……実はね、あたし、大昔だけどあの家に通ってたの。ええ、家政婦やってたからね。

 立派なおうちだけど、本当に厭ぁなところなのよ。気味の悪い部屋があってさ、そこだけは掃除しなくていいって言われて、どれだけほっとしたかわかんないわ。あそこにいると、一人でいても誰かに見られてるような気がしてきて――

 もう、笑いごとじゃないのよ。大丈夫って? 素敵なおうちですって? まぁ……。

 ――でも、こんなこと綾子さんに言ってもしかたないわよね。お父さんと旦那さんがもう買っちゃったんでしょ? それじゃ引っ越しはしなきゃならないとして、本当に気をつけなさいよ。無理だと思ったら出ちゃえばいいのよ。

 終の棲家にする予定ですって? 噂も知ってる? あんた、見かけによらず豪気なのねぇ。

 まぁ、冗談じゃなくお気をつけてね。おばあちゃんもよ。

 それじゃふたりとも、またね。

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