賢者の推測

 勇さんが皮膚の包みの茶色いほうを開く。僕は緑色のほうを開けた。

 湯気とともに甘い香りが漂う。これもどこかで嗅いだことのあるっぽい匂いなんだよなぁ。

 ドラゴンの皮の中身は、肉団子かつみれのように見えた。

「これ、なんですか」

 石田さんの問いかけに鈴木さんはニヤリと笑った。

「ゴブリンの眼球です」

「鈴木さん、どこから異世界へ旅だったんですか?」と困惑気味の石田さん。

「秘密にしていましたが、実は当店の冷蔵庫も異世界に繋がっていまして」

「どれどれ」と勇さんが席を立って、カウンターの向こう側へ行こうとする。

「企業秘密ですので、ご遠慮願います」

「にしても眼球とはね。ジョークだとしても、ちょっとグロテスクだな」

 石田さんが顔をしかめるようにする。

 確かにつくねのようなものはヌラッとした半透明のゼリーのようなものをまとっていて、目玉と聞かされてから見ると不気味だ。

「でも、石田くん。魚なんかは目の周りの肉がうまいぜ。この前、鈴木がもらってきたマグロかなんかの頭で兜焼きつくったとき、あんたもいただろ」

「あぁ、あれは美味かったですね。見た目のインパクトのあるでかい料理ってのは、イベントとして盛り上がり……」

「いけるな。目ん玉」

 石田さんの話が途切れるのを待ちきれなかったらしい。勇さんは口をもぐもぐさせながら、鈴木さんに親指を立てる。

 食べてみて、サムズアップしたくなる気持ちがわかった。

 たぶん、肉だ。魚ではなく、鶏か豚か牛か。いや、魚なのかもしれない。

 独特の香りがなんの肉かを謎にさせているが、とにかく美味い。肉団子を覆うようにしている半透明の部分にも、味があって美味い。

「団子状のものをコーティングしているの、水溶き片栗粉ですか?」

「どうでしょう」と鈴木さんははぐらかす。咄嗟に異世界食材をでっちあげることはできなかったらしい。

「違うな、煮こごりみたいなもんか。でも、これやっぱり、一種のちまきですよね。もち米と鶏挽き肉を混ぜて、水溶き片栗粉にナンプラーを混ぜた液にくぐらせてから、ドラゴンの皮で包んで蒸した。そんなところですか?」

「あんたは野暮なうえに間抜けか。蒸してないだろ。揚げてあるだろ」

 どこか馬鹿にするような口調で、勇さんが反論する。動じずに石田さんは応じる。

「濃い緑のほうは蒸していて、茶色くなったほうは揚げているんですよ。包んである中身は同じですか」

「ご名答。さすが石田さんです。緑は右目を蒸したもの、茶色は左目を揚げたものです」

 今日の鈴木さんはなんだか楽しそうだ。なるほど、そうきましたか、でしたら、左目のほうもいただきましょう。

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