勇者の召還

 ドラゴンの皮をむいているときにわかった。間違いなく揚げてある。

「こっちも肉団子みたいですけど、右目とは違うみたいですね」

 竜の皮の破片を手に石田さんが首を捻る。

「異世界の生物の目は左右非対称のものが多いんです」

 また鈴木さんが悪ふざけをする。

 確かに中身は肉団子のようだ。蒸したバージョンのように半透明のコーティング部分はない。

 一口噛んで、うわっとなった。じゅわっと口に広がった肉汁のようなものが、熱い。

 それになんだ、このコリコリした物体は。肉団子のなかになにか混ぜ込んであるのだろうか。

「ゴブリンの右目はかたいので、よく噛んでくださいね」

 僕に向かって鈴木さんは言う。

「あれ、左目じゃありませんでしたっけ」

 石田さんまで異世界設定に乗っかり始めた。

「失礼、そうでした。なにしろ百戦錬磨の冒険者の勇さんと違って、まだ異世界初心者なもので」

「少年、ゴブリンの片目はな、たこ焼きと同じ構造をしているんだよ。そうだったよな」

「どうでしょう、そこまで詳しくないもので」

 鈴木さんは肩をすくめた。

 そうか、このコリコリはタコか。そう言われれば、そんな気もする。

「肉団子にタコね。ずいぶん、手のかかることを」

 あきれたように言うと、石田さんはソーダ割りを口に運んだ。

 きちんとコースターの中心にグラスを置くと、石田さんは腕を組む。

「にしても謎は、この独特の香りです。たぶん、こいつが要因なんでしょうけれども」

 石田さんは肉団子を包んでいたものを指でつまみあげる。

「竜の皮膚な」

 愉快そうに口にして、勇さんもグラスに手を伸ばす。

 その手が止まった。

「なんだよ、こりゃメールじゃなくて電話だな。こんな時間の電話はろくなもんじゃないって相場が決まっている。すまん、ちょっとケータイ出すぞ」

 カウンターの下で、しかも手で隠すようにして、勇さんはスマホの画面を確認した。親指で二回、タップするとスマホが発していた光が少し暗くなった。

 着信中の電話を切ったのだ。

「美味かった。これ飲んだら帰るよ。手が空いたら会計頼む」

「では、すぐに」

「慌てなくていいよ」

 伝票を確認しにいった鈴木さんを見て、勇さんはグラスを空にした。

 支払いを済ませた勇さんが立ち上がる。スーツケースの取っ手をなでるようにして、こう言った。

「出かけるとするかな」

 なんとなく答えがわかったから、僕は尋ねた。

「どこへ?」

「異世界までさ」

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