勇者の作法
「お待たせしました。ドラゴンの皮とゴブリンの爪を使った特製メニューです」
鈴木さんが皿を置いた。
「これは……ちまき……ですか」
小さな声で石田さんが尋ねた。
言われてみれば、確かに中華ちまきに似た見た目をしたものが、二つ鎮座している。竜の皮膚が笹のようだ。
一つは緑色を保ったままだが、もう一つは葉っぱが枯れたように茶色っぽく変色していた。
「二つ、味が違うってことですね」
石田さんが鈴木さんを見上げた。
「ちまきの隣に付け合わせみたいに三つあるのは、なんだ? 鈴木」
「爪です。まずはそのまま。お好みでソースをつけてお召し上がりください」
確かにタルタルソースのようなものが添えられている。
「じゃあ、爪からいくか」
勇さんが箸を伸ばす。おそるおそる俺も「爪」を摘みあげる。
「これ、揚げてありますね」
「しのごの言わずに食え、石田」
火の粉が降りかかってくる前に口に運んだ。
美味い。
馬鹿みたいな感想でごめんなさいだが、美味い。美味い美味い。でも、どこかで食べたような味だ。
これは……そうだ、オニオンフライっぽい。
だが、歯ごたえが違う。風味も玉ねぎっぽいが、少しクセがある感じがする。
「不思議な美味さとしか言えませんね。これ、芽キャベツですか」
首を傾げながら、石田さんが問う。
「違うよ、爪だって」
あくまで勇さんは異世界だという設定を貫き通したいらしい。
「確かに芽キャベツじゃないですね。素揚げ、いや油通ししたんですか。あぁ音を聞いていればよかったな。勇さんとの話に夢中で厨房まで気が回らなかった」
真面目な顔で石田さんは、歯で噛み切った「爪」の断面を観察している。どうにかして謎の料理の正体を見破りたいらしい。そういえば、この人は案外、負けず嫌いなんだったっけ。
「揚げて塩を振った。いや、これ塩じゃないですね。少なくとも、ただの塩じゃない。抹茶塩みたいになにか混ぜてますよね」
「異世界で摘んだ花の花粉です」
しれっと鈴木さんも、それらしいことを口にする。鈴木さんは僕の二倍プラス四か五の歳だから、ライトノベルも異世界も縁がないだろう。それとも、ラノベとか異世界とか転生って、昔からあったのだろうか。
「なんかのスパイスですよね。シナモンっぽいっちゃ、ぽいですけど」
「冷めないうちに皮膚のほういきますか。少年も食えよ。料理はおいしいうちにありがたくいただくのが勇者の作法だ」
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