勇者の挑発

 勇さんは茶色の紙袋から、緑色の板のようなものを取り出した。

「これはな……俺が倒した竜の皮膚だ。さすがに首を持って帰るわけにもいかなかったから、皮一枚剥いで持ってきた。物証がないとよ、誰も俺が異世界で冒険していると信じてもらえないからな。まったく困ったもんだよ、想像力を忘れた大人ってのはさ」

 勇さんは石田さんの肩に手を置いた。

「少年の心をなくさなければ、オッサンになったって勇者でいられるのにな」

 今度はカウンターの向こうの鈴木さんを指差す。

「あとは、こいつだ」

 勇さんは袋から、さきほどとは別のものを取り出した。今度のは薄紫っぽい色をしたピンポン玉みたいだった。

「これはなんですか。もしかして、ゴブリンの爪とか?」

 石田さんの質問に勇さんは大きくうなづいた。

「よくわかったな、さすがフリーライターさんは博覧強記でいらっしゃるぜ。なぁ、鈴木、こいつが土産だ」

 勇さんは「ゴブリンの爪」を紙袋の上でころころと転がすようにした。ニヤッと口角を上げて言う。

「お前、昔、一流ホテルで修行してたんだろ?」

 鈴木さんは「一流かどうかはわかりませんが」と苦笑いを浮かべる。

「トリュフ、フォアグラ、あとなんだ?」

「キャビアですか?」

 すかさず石田さんが答える。「そう!」と勇さんが指を鳴らす。

「さすがは石田くん。素人さんかのクイズ番組にでも出て賞金獲ってきておごってくれよ」

「三大なんとかはクイズの定番ですからね」

 嬉しそうに言って、石田さんはグラスに手を伸ばす。

「それはそうと、鈴木、お前、一流料理人ならば、どんな食材でも美味いもんつくrうぇるよな」

 挑発するように勇さんは声をかける。

「じゃあ、せっかくですので、ドラゴンの皮膚とゴブリンの爪で美味しいものをつくってみましょうか。ちょっと時間かかるかもしれませんけど」

 子どものような笑顔を見せて、鈴木さんは厨房へ消えていった。

「さて、お手並み拝見といこうか」

 楽しそうに勇さんが顎をなでた。

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