第49話 独身会
同窓会のあと、男女問わず、一人者からの連絡がいつまでも続いた。
私に狙いを定めたおっさんが特にしつこい。
適当にあしらっていると、二番手三番手にもしつこく迫り、なんとかデートにこぎつけているようだ。結婚ってそんなに大事なんだろうか。確かに、私が死んだらこの土地はどうなるんだろう。子供がいないこと、家族がいないこと。考えても答えが出ないことは、頭の中によぎった時点で、パパっと掃いて捨てる習慣がある。今日も、美味しい珈琲を飲む。それがたった一つの現実だし、その現実が私の未来に繋がっているはず。
男はさておき、古い女友達との連絡が再開して、少しワクワクしている自分の感情に驚いている。今まで女の集団はめんどくさい物でしかなかった。一人を楽しむ者同士が、適度な距離感で連絡を取り合う。ツールはSNSだったりLINEだったり。ごくたまに電話がかかってきて、さらにたまに食事に行く。私には心地よいペース。この歳で同性の友人が出来ると思っていなかった。山下も喜んでいる。
「一度、招いたらいいのに。俺も会ってみたい。」
家には正直招きたくないのだけど、なぜか山下はノリノリだ。
私は、会社員ということになっている。嘘ではない。一人者なのに一戸建を買ったことや、その敷地内で喫茶店の経営を始めたこと、その喫茶店では山下が一緒に働いているなんて誰にも話していない。親しいと思っていない人には嘘をつかず、余計なことは言わない。
しつこいおっさん達からも時折連絡が来ていた。二人で会わないなら面倒な事態にもならないだろうと、断り切れない時は独身グループ全員で集まった。たまに生活環境の違う人たちと集まって食事をし、会話をするのは楽しい。
三度目の独身会の帰り、会場で別れた全く住む方向が違うはずの男が一人、同じ電車に乗っていた。しかも声をかけてくるわけでなく、同じ車両の隅に座っている。静かに本を読んでいて、私と目が合うこともないので、こちらからも声をかけず、スマホゲームに興じていたら次に気づいた時にはいなくなっていた。
その後も、何度か仕事帰りの電車で見かけるようになる。そして、いつの間にかいなくなっている。同じ沿線に引っ越したのかもしれない。それにしてもスマホという文明の利器が生まれてから、電車で人と目を合わせることが全くなくなった。自分も含め、9割の人がうつむいている。その同級生も例にもれず。最初に顔を見かけてから2週間ほどたったある日、ついに私の方から声をかけた。二言三言言葉を交わし、お茶でも飲もうかという話になって、途中下車をする。独身会の異性と二人きりは初めてだ。
「引っ越したの?前に話したときは違う沿線に住んでるって言ってなかったっけ?」
と尋ねると、
「うん、まぁね。」と変にそっけない返事が返ってきたので、それ以上は聞かないことにした。そもそも興味がないんだし。30分ほど他愛のない話をしながらお茶をして駅へ戻る。電車に乗ろうとしたところで、
「ごめん、電話かかってきたから先に帰って。」とスマホを耳にあてながら手を振った。私もすっと手を挙げて電車に乗り込み、スマホを眺める。
空いた席に座り、ゲームをしながら晩御飯の献立を考える。その前に冷蔵庫のストックを思い出す作業がある。山下がいたら、休憩処だってまだ賑やかなはずだ。カウンターでワンプレートディッシュにするか。疲れた脳をフル稼働させる。
電話がかかってきたといってホームに残ったはずの男が、隣の車両からこちらを見ていることに全く気付く余裕がなかった。
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