第48話 同窓会

どうやって調べたのか、自宅に同窓会の招待状が届いた。


中学3年のクラス。あまりいい思い出がない。

なのに、山下は行けとしきりに勧めてくる。

ほとんど学校に行けずに大人になった者には羨ましい行事のようだ。


先生には会いたかったし、結局出席することにした。

同じ高校に進学した人や、卒業後に連絡を取り合った人もいる。逆に卒業以来一度も会っていない人がいる。そうなると30年以上ぶりの再会だ。それはもう、ほとんど知らない人と言っていい。


久しく訪れていなかった地元の駅前は恐怖を感じるほどの変貌を遂げていた。キノコかタケノコかという勢いでビルが乱立して、以前そこに何があったのか思い出せない。建築途中を見ていないから、文字通り生えてきたように感じる。私が暮らしていた頃にはなかったお洒落な料理店が同窓会の会場だった。


30数年分の変化をした人々が集う。おじさんとおばさん、先生はおじいさん。それでも、ほとんどの人の顔と名前に記憶がある。

「変わってないね。」という言葉が飛び交う。いや、髪の毛なくなってるって・・・。


お酒が入ると、今どうしているのかという話がメインになってきた。自分の成功を自慢したい奴が世の中にはたくさんいる。こういう時は適当に聞き手に回るに限る。親しくもない人にペラペラと自分の話をする必要はない。


「さつきちゃんの旦那さんってどんな人?」

無神経な女が聞いてきた。自分が社長夫人になっていることを話したいだけ。

「私、結婚してないよ。そもそも結婚願望なかったし。」淡々と答える。

「えー、そうなんだぁ。私のダーリンさぁ、結婚した時は会社員だったのに、起業して大成功してね、」めんどくさいなぁと思いながら相槌を打っていると、樽のようなボディラインの女性が反対側に座る。

「さつきちゃんて結婚してないの?一度も?じゃあ、子供産んでないの?子供はいいよ~。うちの娘なんて2歳から役にたってたもん。」

娘を道具扱い。社長夫人と樽を巻いて洗面所で一息つく。こんな会合でも山下には羨ましいのか。


会場に戻り、適当な食べ物を手にして空いた席に座ると、今度はさえない男に話しかけられる。

「長井さん、僕のこと覚えてる?」

忘れるはずがない。さんざん、私のことをデブだブスだと指をさして笑いものにした男だ。

「もちろん。」笑顔で大人の対応をする今の私は標準的な体系をしていて、相変わらずブスなのかもしれないが、少なくともデブではない。

「いい女になったね。」

「はぁ!?」心の声が盛大にもれてしまった。


「変わらないね。」そう言って笑いながら、私の向かいに座る女性。よく覚えている。大人しくて目立たない女の子だった。今も同じ話し方をする。小さな声で、ゆっくり。私は散々男どもに嫌なことを言われ続けたけど、この子は何も言われていなかった。傷つけていい人間とそうじゃない人間を勝手に決めている人に腹を立てたものだ。

「私も独身なんだ。バツついてるけど。」

「へぇ、そうなんだ。大変だったね。」他にどういえばいいのやら。

「そうでもなくてさ、一人っていいよね。」

その気持ち、分からないこともないけど、私は今一人な気がしていない。

たくさんの人と支えあって生きている。


「俺、いまだに結婚できなくてさ、何が悪いんだと思う?」

「うち、奥さん出て行った。」

気づけば一人者の男が集まってきている。

「何が悪いかは、既婚者に聞いた方が、適切なアドバイスもらえるんじゃない?」

「そういうことじゃなくてさぁ。」

じゃあどういうことなんだろうと思ったら、連絡先を聞かれたことで事情が分かった。この人達にとって、ここは大切なお見合いの場なんだ。この年齢になれば、なかなか出会いはないし、お見合いはもっと現実味がない。でも結婚したい。昔の知人が集まる同窓会は、そんな人にうってつけの場だ。独身が男女とも数人いて、それぞれが絶妙な距離感で会話を始めている。


めんどくさい・・・。場をしらけさせないために一応連絡先を交換して帰る。


「どうだった?」

翌日、同窓会とはを知りたがる山下。

「はぁ。モテ期到来。めんどくさかったぁ。」とことの次第を簡単に伝える。

スマホにたくさんのメッセージが届いている。

また会おう、また電話する。また、また、また・・・。


大笑いする山下の隣で、味も素っ気もない文章を送り続ける。

君たちに関心がないこの思い、届きますように。


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