第46話 転職活動
2週間の休暇が終わり、再び仕事に戻ることになる。
長期休暇とは名ばかりで、充実した日々は例え1年でもあっという間に過ぎていく。
珈琲を淹れながらパスタの試作をし、会社に行く以上に忙しく、泣いて笑った2週間。確かに心は穏やかになった。なのに、またストレスの原因の中に飛び込んでいかなければならない。生活するためには働かなければならず、会社に行けば体調が悪くなる。私にとって職場は必要悪だ。
転職活動するか。
自分の年齢を考えると一歩が踏み出せない。
会社に出勤する一歩も踏み出せない。
住宅ローンだってたっぷり残っている。
八方塞がりってこういうことを言うんだなぁ。重い足を引きずるようにして駅を目指しながら、私はまるで他人事のように思った。
このまま働き続けていたらどうなるんだろう。
基本、ネガティブで人間嫌い、引きこもり系の私には不幸な顛末が続々と脳裏に浮かんでは消える。自分が転勤になって、あるいは話の分かりあえる人が入ってきて、職場環境が改善される、そんなシナリオは浮かんでこない。可能性はどちらもあるのに。そして、仕事に復帰すると、私には転職活動をする時間がなかった。休暇の間に相談窓口を訪れるくらいしておけばよかった。いつもそうだ。お盆休みや年末年始の休暇が終わる時、買ったままの本を読めばよかった、ハードディスクの整理をすればよかった、次々になすべきだったことが思い浮かぶ。基本行き当たりばったりでだらしない。
電車に揺られながら、転職サイトを調べてみる。
そこに次々と出てくる現実。私が応募できそうな仕事は単純作業で基本給が20万円に満たない。自分の経験が活かせそうな仕事の求人は35才までという規定がほとんど。会社に必要ない人間というレッテルを貼られただけでなく、社会からも見放された気分になった。
会社に近づくと明らかに体調に変化が出る。どうか倒れないでくれと祈っているところへLINEが届いた。山下からだ。
「今日から仕事復帰だったよな。絶対無理すんな。」
覚えていてくれたのか。不意打ちを喰らって、電車の中なのに涙が溢れる。必死で隠して、最寄り駅のベンチで休憩。
どちらかと言えば、今までわりと楽しい話ばかりしていた。
でももう、無理だ。ダメもとで電話をかける。
ワンコールで繋がった。
「メイ、どうしたの?大丈夫?」
私から弱音を吐くために電話をしたのは初めてのこと。
そうだ、誰かにどうしたの?って聞いて欲しかったんだ。大丈夫?って言われたかったんだ。山下の声を聞いて気づく。涙が止まらず、言葉が出ない。
「どこにいるの?行こうか?」
稽古を抜け出そうとしている山下の発言が、私を現実に引き戻してくれた。
「仕事、もう無理かもしれない。」
会社の近くまで来たら具合が悪くなること、求人がないこと、出来るだけさらっと伝える。そもそも山下は就職をしたことがない。そして、甘えたいけど心配をかけたくない。
「メイには休憩処もみじがあるんだからさ、新しい職場のお給料が安くてもいいんじゃない?むしろその方が店の営業に力入るかも。」
山下は笑っている。
「給料の金額よりさ、しっかり休める仕事探せよ。大事な場所があるんだから。」
自分と違う角度から発言する人と会話をするのはとても大切なことだ。
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