第11話 合コン

 推される山下は、推されるべく特定の彼女を作らない。


 社則に「恋愛禁止」とうたわれているわけではないが、暗黙のルールみたいなものだろうか。普通に恋愛が出来ないことがその人にどれだけの苦痛をもたらすものなのか、私には想像が出来ない。恋人はいたらそれでいいし、できなくてもそれでいい。そんな私と同じスタンスの人なら特に不都合もないのかもしれない。でも、人間って時折どうしようもなく人を好きになってしまう生き物なのではないだろうか。


 心とは別に体が女性を求めることも多々あるようで、山下のような人たちは秘密厳守、会員限定の隠れ家で男性を相手にすることを生業にしている女性たちと遊んでいる。本人同士が納得していればそれでいい。ただ、そこに支払いが発生する関係を経験していない私には、現実としてピンとこない物がある。他の男友達が各々の恋愛事情を報告してくれるのと同じで、山下もそんな自身の裏話を恥ずかしげもなく聞かせてくれる。彼らにとって私は女ではない。それはとても心が軽い。ただ、男の現実や本音を知らぬまま、恋に恋をしている女性たちを気の毒に思う。


 食事の約束はお互いの友人を誘って賑やかにしようと決まったものの、私の女友達は定員に達しない。そんな事情から、私の男友達と山下の女友達を集めた合コンのような形で食事会をすることになった。


 誰なら誘っても大丈夫だろうか。芸能人に無知な人、メディアで仕事をしている人と普段から多少でも関わりのある人。とにかく山下を特別扱いしない人であることが私の中での絶対条件だった。高校時代の同級生に声をかける。自分が卒業した大学に残って講師をしている人、ホテルマン、小さくてしっかりした飲食店を立ち上げた人。美容師。いろんな業種の人と普段から接していそうな人を選んだ。それにしても、同じ高校で同じ授業を受けたのに、みんな様々な道を歩いている。くすんだ会社員になった自分とついつい比べてしまう。とんでもない苦労をしているはずなのに、輝かしい肩書だけでなんとなく羨ましく思う。私はやっぱりちっぽけな人間だ。


 カジュアルな店で開かれた合コンのような飲み会が始まってから、自分が誘う友人のことばかり心配していたことに気づいた。山下が連れてくる女性がどんな人たちなのか、想像しようとすらしていなかった。目の前に座っているのは、金魚かインコか。みんなカラフルなフリフリのワンピースをお召しのひと世代若い女性の集団。一口飲み食いするたびに、「うーん、おいちぃ(と私には聞こえる)。」とはしゃいでいる。


 「交友関係、こんな感じか・・・。」


 ありえないことではない。むしろその方がしっくりくる。そして、それは私の一番苦手とするタイプの女の子達。無理に話を合わせることもせず、

 「これ、食べれなぁ~~~い。」と好き嫌いアピールをしてかわい子ぶっている女の前で、嫌われたハマチを口に運び、酔いもせずに日本酒を飲み、ちょっとその場をしらけさせた。


 幸い、男はどんな有識者でもインコみたいな女の子が目の前にいたら、楽しくなってしまうようで、それなりに食事会は盛り上がった。連絡先を交換し合っている者もいる。


 山下を含め、久しぶりに会う男友達と楽しく飲み食いできたのはよかったけど、やっぱり私は大勢で集うのが性に合っていない。帰宅して湯舟に浸かると疲れが溶け出してきた。当分、飲み会には行かなくていいかな。

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