第6話 看病

 私は、他人の家に行くのが好きじゃない。

人に自宅に来られるのもどちらかと言えば嫌いだ。


 何度か一人暮らしの男友達の家に大勢で集まって飲み会をしたことがあるが、

この状態でよく人を招くなぁと思った。理由はいろいろ。圧倒的に食器が足りない、壊滅的に部屋が汚い、招いた人数に対して部屋が悲しいほど狭い。男友達と過ごす時間は気楽でいいけど、さすがにこれは気にしなさすぎだろう。そんな目に遭ってから、よく言えば「ホームパーティー」にはあまり参加せず、店で人と会う機会が多くなった。


 教えられた住所に頼まれた物を買って訪ねると、そこはテレビでしか見たことのないサイズのマンションだった。セキュリティがしっかりしていて、入り口で部屋番号を押すと該当する家でチャイムが鳴るらしい。何とかエントランスをクリアしてエレベーターで部屋に向かうと、当たり前だが玄関にもチャイムがある。

 「めんどくさいなぁ」ピンポーン。

 「鍵開けてあるから、入って。」

交際相手ではない男の部屋で二人きりになるのは初めてのことだと、ドアを開けるタイミングで気づいた。


 そこはまるでドラマのような空間だった。

白い壁、白いドア、柔らかそうなソファときれいなカウンターキッチン。高そうな食器棚の中には高そうな食器がきれいに、しかもたくさん並べられている。プリンを買って来てほしいと頼まれて、私が行ったのはスーパーマーケットだった。デパートに行かなければならなかったのか?と一瞬怖くなる。

 

「イメージ。」

山下は呟いた。全然声が出ていない。商売道具なのに。

「イメージ?」

「こんなところに住んでいるんだろうなぁって、ファンが想像するような所に住んで、いい車に乗らなきゃダメなんだ。」

「ふーん。」

3LDKは一人暮らしには広すぎる。そんな中でもリビングの広さが、目の前にいる人は別世界の人なんだと私に実感させた。私のアパート一室より広そうだ。


「ほとんど使ってない」

規則正しく並んでいる食器を眺めて山下は言った。さっきテレビで見たあの人は、今目の前でブランド物とはいえ、ボロボロのスウェットを着て頭を掻いている。イメージねぇ。


 「寝てなよ。せめて座ってた方がいい。」

恋人でもない男の部屋の台所に入り、おかゆを作る。

想像通り、冷蔵庫は空っぽで頼まれてもいないのに持ってきた卵や梅干しが役にたった。


 「あー、これなら食べられる。ありがとう、メイ。」

おかゆとプリンを平らげた山下が風邪薬を飲んだところを見届けて、私は部屋を出る。リビングのテーブルに、これまた頼まれてもいないのに買った解熱剤を置いた。明日の仕事は大丈夫だろうか?


 そもそも、なぜ私が呼ばれたのだろう。他にも友達いるだろうに。そういえばあまり交友関係の話を聞いたことがなかった。


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