第3話 所作

芸能人にオーラなんかない。


 これが私の持論。絶対に街中で光ってなんかいないと思っている。一度、東京駅で女性タレントとすれ違った時は、普通の人と違うと感じたけど、それはあり得ないほどに手入れされたサラサラの髪、人並み外れた身長、キレイな姿勢とスタイル、周りを囲む大勢のスタッフ、そんな物が相まって、近寄りがたい雰囲気を出していたのだと思う。


「山下さん、お箸の持ち方が変です。」

堪えきれず、私は口に出してしまった。山下はきょとんとしている。

「そうなの?今まで誰にも言われたことないなぁ」

そう言いながら箸を持った自分の右手を眺めている。指を動かすと、中指と人差し指の間で箸が不自然にクロスする。


「誰も言えないんじゃないですか?」

ケンカするつもりなど全くないのに、時折私は誤解を招く発言をしてしまう。気づいたときには心の声は音となり、山下に届けられていた。さらに悪いことに私の言葉は止まらない。


「人に見られる仕事をしていて、企業のトップと食事をする機会もあるのに箸が使えないって、和食は避けてもらった方がいいんじゃないですか?」

ケンカにならなかったのは、山下の方が少し大人で、だいぶ素直だったから。


「お、教えてー。」

お腹がいっぱいになってきて、箸を置いていた私に、箸を持つように懇願する山下。手本を見せると、必死で練習している。周りの人の箸使いも見て、自分だけおかしな持ち方をしていたことに気づいたようだった。


ガーリックチップや、レタス相手に格闘している姿を見て、「家でやれ。」と口に出してしまいそうになり、必死で飲み込んだ。



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