第2話 談笑

 山下は私の元上司と親しいせいか、仕事柄なのか、知らない人が大勢集まっている食事の場なのに、特に居心地悪そうにする風でもなかった。そして、話したくない私にいろいろ話しかけてくる。


 「仕事何してるの?」

 「旅行会社に勤めています。総務部なので、お店に出ることはないんですが。」

私の仕事を聞いてどうする?そんな心の声を隠し、わりと真面目に事実を話す。


「休日は何してるの?」

見合いか。

「連休が取れたら、一人旅に行きます。国内が多いですけど。」

「へー、いいなぁ。」

あんたの方が、あちこち行けるだろう。

「俺さ、仕事柄全国に行くんだけど、観光できないんだよね。」

「お忙しいんですね。ご当地の美味しいものくらいは召し上がるんでしょう?」

こいつじゃなくて、久しぶりに会ったバイト仲間と話がしたい。

「スポンサー企業の人と会うときはレストランで会食することもあるけど、外に出るなってホテルの部屋に閉じ込められてる方が多いよ。時間になるとコンビニ弁当が運ばれてくる」


「は?かわいそう…。」

全く知らなかった監禁事情に食いついてしまった。

「山下さん、日本にはいい所がたくさんあるし、そこには美味しいものや温泉があります。いつかゆっくり訪れることが出来たらいいですね。」

今度は山下が食いついた。

「山下?」

「あなたがご自身でそう名乗ったんですよ?」

アイドルに興味のない私にとって、山下はただの山下で、ただの元上司の知り合いだ。


一環して自分を山下さんと呼び、媚びることも騒ぐこともしない私に、山下は少し興味を持ったようだった。

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