推される山下、誰も推さない私
穂高 萌黄
第1話 山下との出会い
私は誰も推さない。
一応、ご贔屓の俳優さんやミュージシャンもいるし、コンサートや演劇鑑賞に足を運ぶこともある。でも同じ作品は一度観られたらそれでいいし、記念にパンフレットを買うくらいで、ツアーグッズを買い占めたり、全国行脚をしたりすることはない。それに、いくらご贔屓とはいっても生でお姿を拝見できるだけで嬉しいというわけではなくて、演出や脚本が気に入らなかったら、作品として「商品」として私の中では残念な買い物をしたという結果になる。
そんな風に考えるようになったのは、山下に出会ったことが大きく起因している。山下は私の男友達の一人。初めて会った時、彼は大勢の女性に推されることを生業としていた。
社会人になってからも、学生時代にアルバイトでお世話になった会社の元上司や仕事仲間とよく集っていた。ある日の飲み会に元上司に連れられてやってきたのが、山下だった。彼が飲み会に現れたことで、その場は異様な盛り上がりを見せた。ファンかどうかは別にして、同世代の女性のほとんどが顔と名前を認識している有名人。アルバイト先がコンサートのチケットを売る会社だったから、お偉いさんにはそんなつながりもあったのかもしれない。他の女の子達とは違い、私は仲間同士の飲み会にいきなり誘っていない人を連れてくる元上司に少しイラっとしていた。にもかかわらず、一番端に座っていた私の向かいに山下は座った。みんなの羨ましそうな視線がささる。今から席を変わるのも失礼だし、なんか面倒な展開になったな、そんなことを思っている私の目をまっすぐに見て「初めまして、山下です。」と彼はは名乗った。山下の隣に座っている女の子は、失神寸前だ。握手して欲しいのか、「あ、あ、」と言いながら手をパタパタさせている。
山下…。それは私の知っている彼の名前ではなかった。思いを察したのか「本名で仕事してるから、普段はマネージャーの名前借りてるんだ。色々めんどくさいから。」どちらかといえば無愛想で男に媚びない私に、山下は聞いてもいないことをペラペラと話してきた。
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