第12話 どうして、こうなるんだろう

 結局、おれたちはお咎めなしで済んだ。勝手な想像だが、あの時おれたちを挙げると、処分は必至。体育祭にも参加できないだろう。装飾を仕上げるために、早朝から学校へ来ているおれたちを見て、目をつぶってくれたんかな。


 体育祭当日、始まってしまえば、あっという間に午前のプログラムは終了した。午後最初のプログラムが応援合戦である。昼飯も適当に済ませて、準備にかかった。おれたちのグループの応戦合戦が始まると、おれは立て看板の後ろに上って、仕掛けを動かした。そして、クライマックスの合図に合わせて、右腕を吊るしている綱を放した。勢いよく滑車が回り、綱が伸びていく。森岡の合図の声で綱を掴んだ。ひじの関節の部分で、木材がぶつかる音がしたので心配したが、前に回って確認すると、義経の右腕は無事体についていた。後のことは不思議と記憶に残っていない。どうでもよかったのだろう。

 体育祭が終わるとプロの集団が現れ、立て看板など、あっという間に片づけてしまった。後に残ったのは、膨大な段ボール、竹、木材の山だった。それも、月曜日に学校へ来ると、跡形もなく片付いていた。


 工具などの片づけをしているときに、森岡が声をかけてきた。

「山村、打ち上げ、本当に来ないのか。」

 同級生の小島の家は田舎なので、少々騒いでも、周りに迷惑をかけることがない。体育祭の翌日の日曜日にグループの気の合う仲間で打ち上げをする計画が立ち上がっていた。

「ああ、無理。お袋の調子が良かったら行くけどな。」

「そうか、残念やな。お前がおったら盛り上がるんやけどな」

「悪い。こらえてくれ」

 天赦園でのタバコ事件以来、急速にこいつと距離が縮まった気がする。


 翌日、みんなが気の合う連中で集まって、打ち上げをしているとき、おれは家で過ごした。晩飯はおれが作った。オムレツまがいとみそ汁、コノシロの塩焼き。コノシロは骨がましかったが、脂がのっていておいしかった。

 森下の家に電話をかけてみたが、つながらない。どこか、打ち上げに行ったのかな。仕方なく、数学の参考書を開く。竹下じゃないが、『遊びはここまで』だ。後は受験か。

 今週末には模試がある。志望校の絞り込みもしなくてはいけない。今のところ、志望校の判定はCとDだけ。やるしかない。


 月曜日、学校へ行ってみるとパラパラと空席が目立つ。竹下が興奮してやってきた。

「山村、お前知ってるか。森岡のグループが打ち上げで、酒飲んでバレたらしい」

「はあ、なんじゃそりゃ」

「ビール飲んどったらしいんやけど、足りんなって、自転車で買いに行ったところで、車と接触事故起こしたらしい。そのあと、パトカーが来て一巻の終わりや」

「絵に描いたバカやないか!」

「そうやな。お前、行ってなかって、よかったな」

 そんなざわめきの中、担任の瀧さんが教室に入ってきた。HRが始まる。ルーティンが終わって、瀧さんがみんなの前に立った。

「みんな、もう知ってると思うが、昨日、飲酒・喫煙で補導されたものがクラスにいる。受験のプレッシャーも勿論あるだろう。羽を伸ばしたい気持ちもわかるが、我慢しろ。あと5か月の辛抱だ」

 

 昼飯を食っているとき、校内放送が流れた。

「3年9組、山村聡志、体育教官室まで。繰り返す。3年9組、、、」

「山村、おまえ、何かやったんか。打ち上げには行かんかったんやろ」

「おお、行ってないし、昨日は家におった」

 思い当たることがないのに、呼びつけられるのは薄気味悪い。飯を食いながら、何度もこの一週間を振り返ったが、体育教官室に呼びつけられるようなことをした記憶は、、、。例のタバコ事件なら、おれだけ呼ばれるのもおかしい。

 飯を食い終わったおれは、重い足取りで体育教官室を訪れると、生徒指導の大倉先生に反省部屋に連れて行かれた。

「山村、正直に話せよ。何度も同じこと訊くんは嫌やけんな。おまえ、一昨日、森岡らと小島のうちに集まって、打ち上げしとったんやないんか?」

 えー、なんで、こうなるんだろう。

「行ってません、家にいました」

「そうか、山村、おれは参加したやつ、みんなに事情を訊いた。そやけどな、誰一人おまえの名前を口に出さん。えらい!そうは思わんか、山村?」

 話がおかしい方向に、えらい勢いで、流れている。

「先生、僕は行ってないんです。だから、みんな、おれの名前を出すわけないでしょ」

「山村、森岡や高島が打ち上げしとんのに、お前がおらんわけないやろ」

「先生、濡れ衣です」

 大倉先生はしばらくおれの顔を睨んだ後、気づいたんだろう。コイツ、本当に行ってなかったんかと。

「わかった。もうええ。気が変わったら、いつでも云うて来い」

 一生変わりません。

 部屋を出ると、西本先生が事務机の横に立って、笑っていた。

「山村君、やっぱり日ごろの行いが大事なんやな」

 おれは爆笑の渦の中、深く腰を曲げて、礼をした。

 部屋中の人が笑っていた。あかん、この人ら全員天赦苑でのことを知っとるんや。それで、一応呼び出して、おれにくぎを刺したんか。

 おれは結局、嫌疑不十分で不起訴となった。こんなことしとる場合じゃないんやけど、、、。

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