第160話 自分の役割
※実際の事件に関連があるため、名前や背景は変えてあります。
横山さん(43)は夢の中で目が覚めた
ここはどこだ?
目の前に中学生らしき学生服の少年が立っている
少年は横山さんを見てニヤニヤ笑っている
「菅原・・・へっへへ菅原ぁ・・・」薄ら笑いを浮かべながら右拳をフッと突き上げる
「逃げんなよ菅原ぁ」
菅原って誰だよ笑
まあ、横山さんはこれが夢だと分かっているのだが。
周りを見渡してみる
あぁ〜なるほど、ここは男子トイレの中か
目の前の少年が学生服だから、ここは学校のトイレってことか
なるほど、俺はこの少年に喧嘩をふっかけられようとしてるのか
「おい菅原ぁ、お前なんで殴られるかわかってるよな!」
少年は、右拳を軽いジャブのようにこちらに突き出してくる
だが所詮は子供だ、威嚇にもならない猫パンチに思わず横山さんは笑ってしまう
「なんだお前?なに笑ってんだよ?なめてんのかお前!殴るぞ!」
堪えきれずに横山さんは少年に話しかける
「殴る殴るってお前、早く殴れよ。怖いのか?笑」
「なぁっ?!おっ・・・お前!!」
少年は顔を真っ赤にさせながら殴りかかってきた
だが人を殴ったことなど殆どないのだろう
「なんだそれは笑」横山さんは余裕で避ける
「ばか!逃げんな菅原ぁ!!」叫びながらまた少年は殴りかかってきた
横山さんは鼻で笑いながら、自分の右の手のひらで少年の顔を正面から張る
「うっぐ・・・!!」少年は鼻を押さえて倒れ込む
軽く当てただけだ
鼻血も出ていない
「痛っ!痛あっ!くっそお前!くっそう!!」少年は鼻を押さえて大げさに騒ぐ
立ち上がると「お前そこから絶対!絶対動くなよぉ!」叫びながらトイレを飛び出していく
あーこれは誰か仲間呼んでくるシチュエーションか?
相手は少年だが、何人来るか分からない(てか夢だが。)
とりあえずこの狭い空間から出ておくか
扉に向かいながらふとトイレの鏡を見ると、そこにはヒョロくてオタクっぽい少年の顔が映っている
あ〜これが菅原くんね
なるほど・・・このシチュエーションは、イジメだな?
トイレを出ると共用廊下だ
やはりここはどこかの中学校のようだ
トイレから出てきた横山さんの前を、廊下を歩く制服の少年少女たちが哀れみの目で通り過ぎる
菅原くんのクラスはどこだ?
この夢がいつまで続くのか知らんが、ちょっと面白いのでまだ醒めないでほしい・・・
そんなことを考えながら横山さんは廊下を歩く
すると背後から
「おい菅原ぁ!待て!!」数人の怒鳴り声が聞こえてきた
振り向くと、先ほど鼻を突いてやった少年プラス4名、いかにもいじめっ子といった風体の少年たちが追いかけてくる
「逃げるな菅原!止まれ!」
横山さんは苦笑いしながらそのまま廊下を歩く
タッタッタッタッタッと走ってくる音がしたので振り向こうとすると、背中に飛び蹴りを食らわされた
少々不意を突かれた横山さんは廊下に倒れ込む
「菅原お前!なめるなよ!」5人の少年たちに囲まれる
「おい、こいつ連れて来い!」リーダーっぽい少年が言い、「立てよこら!」2人の少年が横山さんの腕を引っ張る
またトイレに連れ戻したいのか?
しゃーないなぁ・・・
横山さんはニヤニヤしながら掴まれた腕を振り解くと、自ら歩きだす
横山さん(彼らには菅原くん)の意外な態度に少年たちは少々たじろぐ
おれ最近、学園ドラマなんか観たっけ?
なんでこんな夢見てるんだろ?笑
まぁ、夢が続くうちは楽しませてもらおうか
そしてトイレ前に戻ってきた
「おい!早く入れ!!」少年たちに押されて横山さんはトイレに入る
トイレの中には更に1人、別の少年が待ち構えている
そしてそれはなんと、横山さんの1人息子・正樹(まさき)だ
えっ?
何故ここで正樹?笑
「菅原お前、舐めてるだろ?覚悟しろよ」そう言って正樹が殴りかかってきた
ところがそこから何故か、急に横山さんの体が言うことをきかなくなる
6人の少年たちから、なすがまま殴る蹴るの暴行を受け、痛みを耐えるうちに目が覚めた
反撃できず釈然としないまま起きた横山さんは、苦笑いでダイニングに向かう
中2の正樹はまだ寝ているようだ
「なぁ、最近あまり学校のこと聞かないけど、あいつちゃんとやってんの?」
「さぁ・・・楽しくやってんじゃない?」奥さんが答える
その3日後。
会社から帰ってくると、奥さんから「正樹のクラスのお友達が亡くなった」と聞かされた
「えっ、事故?病気?」
「それが自殺らしくて。〇〇橋から川に飛び込んだんだって」
「その子の名前、なんて言うんだ?」
「菅原くんって子」
横山さんは血の気が失せた
あのイジメは本当のことなのか
自分の息子が主犯格だから、俺はあんな夢を見たのか
息子を呼び、菅原くんの画像を見せてもらった
それは夢の中で鏡に映った少年だった
だが息子曰く、菅原君とはほとんど絡みがなかったという
今回の事件に関して、いじめがあったとしても自分は加担していないという
14歳の少年だ
親を騙すまでの演技はできまい
イジメが原因かどうかも、また自分の息子が主犯格かどうかも、あくまでも夢の中の話だ・・・
横山さんは、我が息子を信じつつも疑いつつ、悶々とした日々を過ごしていた
そして10日ほど経ち、いじめがあったとして中心人物と加担した少年たちが警察に保護された
ところがこの事件を、実名と顔写真付きで週刊誌がスクープした
主犯格以外は、確かに夢で出てきた少年たちだったように思う
我が息子が無関係で良かったと安堵した横山さんだったが
であるなら自分はなぜ、あんな夢を見たのだろうか
なにか理由があって"見せられた"のではなかろうかと
今でも悩むことがあるという
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