第52話 蝉

「あり乾杯♯727」でお話した酸素カプセルの店に来た


ちなみにこの日、サボり癖のある受付の女の子は出勤している


いつものように適当な一台を選び、気圧&時間をセットしてマシンに入る


さあ~30分間、ゆっくり頭をリフレッシュし・・・


しゃ〜〜〜しゃ〜〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃわわわわわわぅぅぅぅ・・・。


え?!

ええっ?!

いやあの?!

めっちゃ至近距離で蝉鳴いたで?!


このカプセルの中ではないよな・・・

まさか室内に居るのか?セミ??


しゃ〜〜〜しゃ〜〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜わわわわわわぅぅぅぅ・・・。


いやめっちゃ近いやん??

えっ??

なんで??

どゆこと?!


しゃ〜〜〜しゃ〜〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃ〜しゃぅぅぅぅ・・・。


嘘や〜ん??

やっぱり室内におるの??


もうそれからは蝉の鳴き声の近さが気になって気になってリラックスどころじゃない


結局、最後の10分ほどは静かになったが、前半20分は1分おきくらいに鳴きっぱなしだった


時間がきてカプセルを出る


いったいどこに止まっているのかと部屋を見渡す


が、壁や天井、カプセル本体に蝉は止まっていない


おんや・・・??


いや確かに、至近距離で鳴いて・・・あっ!いた!!


トイレ前に掛かっているカーテン。


そこに黒い物体が引っ付いている


少し近づいて目を凝らす


ああ、確実にクマゼミやん・・・


一旦その場を離れ、受付に向かう


「ちょっとちょっと」


受付の女子「・・・はい?」


「奥に蝉おるの、知ってる?」


「はい・・・」


「あ、知ってんの?いつからおるん?」


「たぶん・・・今日」


「取ろか?」


「・・・飛ばないですか?」


「いや、わからんけど。なんかビニール袋みたいなん、ある?」


「・・・これで良いですか?(とコンビニの袋を出してくる)」


「取ってくるわ。飛んだらゴメンやで」


露骨に嫌な顔をした女の子が、受付奥に下がる


奥に戻り、カーテンの近くに行くと、蝉はまだしっかり止まっている


これ・・・どうするかなぁ


袋かざしながらカーテンの裏、叩いてみるか。


取るとは言うたけど微妙に難しいな・・・


まあいい。ここは一発勝負。


そーっと近付き、カーテンの横に来て


左手に広げた袋、右手はカーテンの裏に差し入れ・・・


パスッ!


おっしゃ!・・・ん?


蝉はコロンと袋に落ちたが、ジジジジッともなんとも暴れない


あれ?


「取れました・・・?」受付の子がそーっと顔を出す


「うん、まあ・・・」


袋を開くと蝉は足を閉じてひっくり返り、ウンともスンとも反応がない


袋に手を入れ掴んでみる


「あっ死んどる」


「えっ?潰したんですか?」


「いやこれ、死んでから結構、時間経っとるわ。カラカラや。軽いし」


「えっ?ついさっきまで鳴いてましたよ?」


「・・・まだ他にもおるんか?」


再度、部屋の中をぐるりと見て回ったが、どこにもいなかった


「じゃあやっぱり"それ"が鳴いてたのですか?」


「う~ん・・・"生きてた感"が、全くないんやけど・・・」


とりあえず袋のまま、蝉は処分するからと店を後にしたが


そこらに捨てるわけにもいかず、車に乗る


マンションに向かう途中で雑木林があったので、そこで車を停める


木のそばにでも置いておこう・・・


ただなんとなく、カラカラなのも可愛そうな気がしたので


飲みかけで車のホルダーに置いていた、さんぴん茶のペットボトルも持って降りる


適当な木の幹にしゃがみ、袋から蝉を取り出し、地面に置く


ペットボトルの蓋をあけ、チョロチョロチョロ・・・と蝉にかける


まあ、何も起こりませんわね


当たり前だよ


フッと笑いながら立ち上が『もぞもぞ。』


えっ?!((((;゚Д゚))))


『もぞ。もぞもぞ。』


歩きだした・・・弱々しいけど・・・


嘘やろ・・・ゾンビか・・・


と、土の上をノロノロ這っていた蝉が


ジッ・・・ジッ、ジッ、ジッ、ジジジジィィィィィ・・・・!!!!


飛んでいったよぉ・・・


誰かどういうことなのか説明してぇぇぇぇ・・・━━━━(゚∀゚;)━━━━!!

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