第42話 部屋と洗濯と私

その昔、ホテル住まいが面倒で、広島に部屋を借りていた時期がある


市内の小町というところにある、2DKのマンション


入居可能となった日の夕方、近所のドンキで買い込んだ日用品の袋をさげ、部屋に入った


まず素っ裸になり、脱いだものを洗濯しつつ、購入した伸縮する物干し竿を取りだす


風呂場と洗濯機ヨコの壁との間に竿を伸ばし、ネジを締め、固定する


風呂に湯を張りながら、買ってきた小物を配置


洗濯が終わり・・・といっても初日なので枚数は限られているが


ハンガーを通し、物干し竿に掛けていく


「ピンポーン」不意にチャイムが鳴る


玄関入ってすぐ横で干していたため、少なからず「うをっ」とビビる


全裸だし。


ちょっと待ってくださいーと返事しつつ、着るもの着るもの・・・


キャリーケースから着替えを出すには時間が係りそうなので


仕方ない、掛けていたスーツを直に着る


ハダカに上着はどうかと思ったから


風呂場に掛けていたバスタオルを永ちゃんのように羽織り、その上から上着を着る


見た目、相当マヌケだ・・・


さっき寄ったドンキで掛け布団セットを買い、宅配を頼んではいたが


配達は19時以降と聞いていたのにな・・・


ちょうど前の便が間に合ったのでーと、宅配の兄ちゃんは、さして俺の格好にも反応を示さず帰っていった


タオルと、スーツの上下を脱ぐ


衣装棚が無いので、さっきまでドアノブに掛けていたスーツだったが


そのまま洗濯物といっしょに、物干し竿にかける


風呂に入る


風呂から出てジャージ姿になり、パソコンでやり残していた仕事をこなし


ふと気付けば午前0時


そろそろ寝るか・・・布団を拡げ、横になる


とはいったものの初めての部屋で真っ暗状態、直ぐには寝付けない


スマホをいじっているうちに1時半を過ぎ、ようやく眠りにつく・・・


どどどどどっ!


どれくらい経ったのか、物凄い音がして跳ね起きた


なんやなんや?!音のした方を見る


窓ぎわに布団を敷き、右手から射し込む月明かりの元で寝ていたのだが


すごい音がしたのは左手の玄関口


目を凝らすと、通路に・・・黒い物体がうずくまっている!


俺は一瞬、息が止まり心拍数があがる


息を殺して暗闇を凝視するが、物体は動かない


意を決し、立ちあがって電気を付けると


しっかり止めたはずの物干し竿が落ちて、洗濯物とスーツが山になって重なっていた


なんだそれは・・・


時計を見ると2時20分


ポンコツ物干し竿を玄関脇に立て、スーツは結局、ドアノブに掛けた


洗濯物はどうしようか・・・


ふと窓を見て、カーテンレールに目が留まる


早速掛けてゆく


さあ、今度こそ寝るか・・・時計は2時半


まだ少し寒い時期であったので、サッと布団に入り、すぐ眠りにつく


再びどれくらい経ったのか


ぐわしっ!


突然顔面を、思い切り冷たい手で鷲掴みにされた


「うわうわうわうわ!!」


反射的に、冷たく濡れた誰かの手を払いのける


飛んでゆく洗いたてパンツ・・・


窓ぎわで寝ていた俺の顔に、ハンガーから外れて落ちてきただけのことだった


こうして初日からビビらせてくれた部屋だったが


結局住んだのは半年間だけだった

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