第38話 セメタリーの災難

2019年7月のこと


ウチの事務所が入るビルの裏手で、大きな鳥がドン、と落ちていた


抱えると、死んで間もないのだろう、まだ身体が温かい(※皆様むやみに野鳥に触れないように。ウイルス等に感染すると大変なことになります)


ガラス張りのビルに、そこが空間と思って突っ込んだのだな


はじめはオオタカだと思っていたが、後に鳥に詳しい方に訊くとハヤブサとのこと


おとなしく森にいれば命を落とすこともなかったろうに・・・


下の娘に譲ったが俺も昔、大型インコを飼っていたので、どうにも放っておけず


ウチのベランダで埋葬してやるか・・・と


そのハヤブサが入りそうな大きさのプランターを買ってきて、余っていた腐葉土を掛けて、セメタリーを作ってやった


しかし・・・


夏場のベランダに埋葬なんて安易に考えすぎた


そのうち大小織り交ぜたハエが群がりはじめ、5日も経たぬ間にハエの巣窟と化した


腐敗臭も凄い・・・


細く開けたガラス窓の隙間から殺虫剤を撒き


一瞬、ハエが居なくなった隙にコバエホイホイをプランター周りに6個設置し


数日間、ベランダを覗かなかった


そうは言っても花に水をやらねばならんので、久々にベランダの外を見てギョッとする


ハエは数えるほどに減っていたが、代わりにプランター全面に、白いしめじのようなキノコが20本以上生えていた


あまりにも不気味だったので、すぐさまベランダに出て割り箸で引き抜く


生えたキノコを撮って載せれば、ある意味"映えた"かも知れんが・・・


腐葉土にキノコの胞子でも混ざっていたのだろうか?


そんなことがあったハヤブサセメタリーも、数カ月後には落ち着きを取り戻し


それからはベランダのガーデニングに、ひっそりと佇んでいた。


2021年5月。


ウチの部屋はマンションの3階にあるのだが


空気を入れ替えようと窓を開けたまま出掛け、結局帰ってきたのが早朝になった


部屋に入ると、ベランダから室内にアリが行列を作って上がり込んでいる


こらこらこら・・・


いくら窓を閉め忘れたとはいえ、よくもまあマンション3階の、リビングのテーブルに捨て忘れたツマミの残骸にまで辿り着いたな・・・


なんでそこにあると分かったのだろうか?


窓を閉め、部屋に上がり込んだアリをコロコロで駆除


その後、近所のドラッグストアに行き、アリの巣コロリを買ってきた


窓を開け、ベランダにアリの巣コロリをセットする


・・・あ、待てよ?


以前誰かから聞いたことがある・・・アリが、コロリごと持っていったと。


「いっせーの!」とかいって、50匹くらいで持ち上げて・・・の図を想像してみたが、いま一つピンとこない


ピンとこないが念のため、ベランダにひっそりと佇むハヤブサセメタリーに釣り糸を括り付け


糸の反対側をアリの巣コロリにガムテで貼り付けた


翌朝。


どうなったかな?とベランダを覗いて、驚愕


なんじゃぁこりゃぁ~~~!!!!!


ガーデニング全体が、ものの見事に荒らされて土が散乱している


セメタリーは無惨にもひっくり返され、ベランダが羽根だらけ(ていうか羽根って腐らないんだ・・・)


そしてアリの巣コロリは無くなっていた


一瞬、何が起こったのかと頭が混乱したが、冷静に考えてみても高さ的にまず、猫は無理だ


となると・・・


PCを開き、アリの巣コロリをググってみる


「アリの巣コロリ効く・効かない」の次に「アリの巣コロリ・被害」とあった


読んでみる


『カラスはアリの巣コロリの匂いが大好きなようで、おびき寄せることがあります』


な、なんだとぅ?!


ウチのマンションの周囲には、海岸沿いに外人向けのバーやクラブが立ち並んでいるのだが


休業要請や時短のあったおかげで、朝方に出される飲食店の生ゴミが極端に減った


そのためカラスも食い上げだったのだろうか


食べ物を漁る範囲を、ウチのベランダにまで拡げたのだな?(アリの巣コロリが誘き寄せたのかも知れないが)


カラスの気持ちが分からんでもなかったが・・・墓まで掘りおこしやがって!


ちょっとぐらい掃除していけや!と腹が立ったが仕方ない。


ゴム手袋をはめ、大きなゴミ袋持ってベランダに出る


全くこんな、よくここまで無惨に荒らし・・・えっ?


ええっ?!


なんだこれ・・・


いやマジでなんだこれ???


ウソやろ・・・(゚д゚lll)


室内から手前だけを覗いていたから

気付かなかった、ベランダ右手奥。


ひっくり返されたプランターと、その周囲に散らばる土と羽根の向こう


縦に等間隔に並べられた13枚の羽根と、その脇に束ねられた羽根の山。


散らばった羽根を集めて順番に並べていると人の気配(俺)がしたので、残りの羽根を置いて立ち去った


という絵しか浮かばない


もはやカラスではない・・・

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